暑さを和らげるものといえば、涼やかな水のせせらぎと、怪談。民俗学者の柳田國男(やなぎた・くにお、1875~1962年)が岩手県遠野市で語り継がれる話をまとめた『遠野物語』(1910年)には、山の神や天狗、河童、幽霊などに関する不思議な物語が収められています。遠野は、田園や豊かな自然など懐かしき日本の原風景が広がる土地。この夏、遠野を旅してみませんか。今回ご紹介するのは、多くを語ることを禁じられたミステリアスな姫神(ひめがみ)を祀る「早池峯(はやちね)神社」。参拝者の間で“座敷わらしに会える”という噂が絶えない、知る人ぞ知る神社です。
滝神である美しい姫神を祀る神社
古木がそびえる参道をまっすぐに進み、姫神を祀る社殿へ。早池峯神社のご祭神はセオリツヒメ。古事記や日本書紀にその名は登場しないものの、「お不動さま」や「滝神」として祀られてきました。明治の神仏分離によって、千年以上の深い歴史の眠りから目覚めるように姿を現し、初めて人々に知られるようになったこの姫神は、今なお多くの謎を秘めています。
取材を通じて知ったのですが、セオリツヒメを主祭神とするのは、特に岩手県の早池峰山(1917m)を中心とした神社だそうです。
セオリツヒメは山から下り落ちてくる速川(はやかわ)の瀬にいらして、すべての罪やけがれを川から海へと流してくださる、「みそぎ祓い」の神さまです。「神道の世界では、知らず知らずのうちに身についた罪やけがれが積み重なり、災いを招くと考えられているんですよ」と、早池峯神社の佐々木まゆみ宮司。だからこそ、日々の行いを振り返り、反省し、素直な気持ちで神さまに手を合わせることが大切なんですね。
セオリツヒメと座敷わらし
全国でもここだけという「ざしきわらし祈願祭」が早池峯神社で行われています。「早池峯大神」のお守りを胸に抱いたざしきわらしの可愛らしさに、思わず笑みがこぼれました。現在は陶器のお人形が授与されています。「座敷わらしが住む家は繁盛し、去った家は衰退する」と伝えられるように、座敷わらしは福の神。早池峯神社にはセオリツヒメと座敷わらしのご利益を賜ろうと、県内外から多くの参拝客が訪れています。また、岩手県内には座敷わらしが出ると評判の宿もあり、予約が取れないほどの人気ぶりです。
佐々木宮司に「神さまや、座敷わらしの存在を感じたことはありますか?」と尋ねると、「あります」と即答。毎年夏に行われる例祭の宵祭り後、社務所で一人洗い物をしていた早朝、子供たちが瓶をぶつけあうようなカチャンカチャンという音が聞こえたそうです。また、一面の銀世界となったお正月の朝、キーンと音がしそうなほどに張り詰めた清々しい境内の空気に触れた瞬間、「神様がいらっしゃる」と、感じられたそうです。
これは余談ですが、早池峯神社で人形の撮影をして家に帰ると、枯れかけた木に花が咲き、はずした覚えのないバッグチャーム(バッグにつけるアクセサリー)が、なぜかキッチンのシンクに落ちていたり、まるで座敷わらしのいたずらとしか思えないような出来事がいくつもあり、ドキッとした私です(笑)。
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