古くから「とろろ汁」の名所として知られる静岡県。江戸時代、江戸と京を結ぶ東海道を行き交う旅人たちは、体力を回復するために、宿場町・丸子宿(現・静岡市駿河区丸子)で、麦飯にとろろ汁をかけて食べる滋養に富んだ食事を楽しむのが定番だったそうだ。当時から地元民や観光客に愛され、400年以上続くとろろ汁の老舗があると聞きつけ、早速おじゃましてきた。
国登録有形文化財に登録された、趣のある建築も見どころ
今回ご紹介するとろろ汁の老舗店『丁子屋』の創業は、慶長元(1596)年。 浮世絵師である歌川広重が描いた『東海道五十三次』の中にある「丸子(鞠子・まりこ)」の図にも、この店と推定される茶店が描かれている。さらには、江戸期の旅行記や十返舎一九の『東海道中膝栗毛』などにも、同店が登場するエピソードが書かれており、旅人たちの間で知られた場所であったことが伺える。
店は、江戸・明治・昭和の建物の集合体だ。茅葺屋根や店の一角にある明治の部屋は、江戸時代の茶屋建築の趣を残すものとされており、国登録有形文化財に登録されている。
江戸にタイムスリップできる、テーマパークのような店づくり
「店内には、 歴史資料館があり、茶屋としての道具や旅道具、古い版画や掛軸など、東海道旅行・文化に関連する展示が楽しめるところもひとつの魅力です。テーマは江戸のテーマパーク。単なるとろろ汁の店では終わらない工夫が満載なので、タイムスリップした気分で、江戸時代の感覚を楽しんでもらえたら」と、14代目店主の丁子屋平吉さん。