国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、新しい年の始まりとともに聴きたくなるような音楽を紹介します。取り上げるのは、ユーミンの通算40枚目となるオリジナルアルバムで、2025年11月18日に発売された『Wormhole / Yumi AraI』。荒井由実時代からのヴォーカルを音声合成ソフトに学習させてつくりあげた話題の作品です。「AIと人間の共生」で、どんな仕上がりになったのか。長年にわたって交友関係のある岩田さんが語ります。
ワームホール、異なる時空へひとっ飛び
ユーミンこと松任谷由実がニュー・アルバムをリリースした。タイトルは『Wormhole』。 Wormhole(ワームホール)とは、時空のある一点から別の離れた一点へと直結する。トンネルのような空間領域を指す。これはアインシュタインの一般相対性理論から数学的に導かれる時空構造のひとつで 「アインシユタイン=ローゼンの橋」とも呼ばれる。分かりやすく言えば、ある時空から異なる時空 へひとっ飛びできることになる。
ジャケットにはイニシャルの“Y”が、宇宙の上にメビウスの輪として描かれている。そんなことを頭に入れながら聴いてみると収録された楽曲の多くが、未来、過去、現在と時空を行き来していることに、このアルバ ム・タイトルが結びつく。
かつてユーミンは「acacia 」(アカシア) という曲で“なつかしすぎる未来がたったひとつの探しもの”と歌った。「Take me home」という曲では“昔は未来の向こうにもあることを歌っていた。ユーミンにとっては、過去 現在、未来は常に脳裏のどこかにいつもあって、それを具象化したのが、このニュー・アルバムではないかとふと思ったりした。
アーティスト名は“Yumi AraI “
次に気になったのは このニュー・アルバムのアーティスト名が、松任谷由実でなく“Yumi AraI”。荒井由実でも松任谷由実でもなく、“Yumi AraI “なのだ。このことは今作のレコーディングに“Chrono Recording System” (クロノレコーディングシステム)が使用されたというクレジットと関係がある。
“Chrono Recording System”とは、分かりやすく言うと、AIによる録音の時系列管理システムとなる。もっと分かりやすくすると過去のユーミンのヴォーカルや声質を現代に甦らせて、 現在のユーミンの声と合わせているということなのだ。



