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精進料理(しょうじんりょうり)

つくるのも食べるのも修行─ 仏教の真理を含んだ究極の日本料理

宿坊での楽しみといえば精進料理。肉や魚、香りの強い食材を使わず、旬の野菜をふんだんに使って仕上げる料理の美しさには、“精進”する者の心意気が表れている。

本膳 左下から時計回りに、飯、平椀、活盛り、中猪口(なかちょこ)、汁椀、漬物
精進料理は本膳と二の膳(ときに三の膳)からなるのが一般的。本膳には飯と汁椀、漬物を基本に、刺身こんにゃくなどでつくる活盛りなどが並ぶ。写真は秋の献立で、中猪口には、香りがよい高野山産の松茸を使用。

二の膳 左下から時計回りに、小鉢、炊合せ、油物、鉢
旬の食材を使った油物(天ぷら)や煮物などが並ぶ。三の膳がある場合はデザートやおみやげが並ぶのが一般的。
同時に配膳する本膳と二の膳は、本膳を少し前へ、前後にずらして並べる。

本来は楽しむものではなく、命をつなぐためのもの

鳥獣、魚介などの肉類や五葷(ごくん=ねぎ、らっきょう、にら、にんにく、しょうがが一般的)と呼ばれる香りの強い野菜を避け、植物性の食品によって構成された料理を精進料理という

その対極にあるのが肉や魚を使うなまぐさ料理であり、仏教では“なまぐさ”を忌むが、精進料理とは単に肉食をせず香りの強い野菜を摂らないという意味ではない。“ 精進”とは本来、精魂を込めて進むことをいう。

最古の原始仏典とされる経典・スッタニパータで釈迦は、なまぐさとは

「生物(いきもの)を殺すこと、打ち、切断し、縛ること、盗むこと、嘘をつくこと、詐欺、だますこと、邪曲を学習すること、他人の妻に親近すること」、

「この世において欲望を制することなく、美味を貪り、不浄の(邪悪な)生活をまじえ、虚無論をいだき、不正の行いをなし、頑迷な人々」、

「粗暴・残酷であって、陰口を言い、友を裏切り、無慈悲で、極めて傲慢であり、ものおしみする性(たち)で、なんぴとにも与えない人々」、

「怒り、驕(おご)り、強情、反抗心、偽り、嫉妬、ほら吹くこと、極端の高慢、不良の徒と交わること」、

「この世で、性質が悪く、借金を踏み倒し、密告をし、法廷で偽証し、正義を装い、邪悪を犯す最も劣等な人々」、

「この世でほしいままに生きものを殺し、他人のものを奪って、かえってかれらを害しようと努め、たちが悪く、残酷で、粗暴で無礼な人々」、

「これら(生けるものども)に対して貪り求め、敵対して殺し、常に(害を)なすことにつとめる人々は、死んでからは暗黒に入り、頭を逆(さかさ)まにして地獄に落ちる」(『ブッダのことば』岩波書店、中村元訳より)ことと説く。

つまり、殺生をせず、戒律に基づいて自らを律し、修行に励む者が命をつなぐために食べることも精進のひとつであり、その食事が精進料理なのである。

精進料理に欠かせない二大豆腐 高野豆腐/ごま豆腐

高野豆腐は、高野山の僧が精進料理として食べていた豆腐が厳しい寒さで凍ってしまい、翌朝、解凍して食べ、翌朝、解凍して食べたところ食感がよく、おいしかったことから全国に広まったといわれる。

凍(し)み豆腐、連豆腐、ちはや豆腐など地方により呼び名は違うが、JAS(日本農林規格)ではこれらをまとめて凍(こおり)豆腐としている。

高野豆腐という名前ではあるものの、現在ではその生産量の8割以上を長野県が占める。

よりやわらかな食感を好む現代人の嗜好に合わせ、でんぷんや重炭酸ナトリウム(重曹)を使った膨軟(ぼうなん)加工法が一般的になっているが、宮城県の岩出山(いわでやま)凍み豆腐、福島県の立子山(たつごやま)凍み豆腐など、天然凍結、天然乾燥など昔ながらの製法を今に伝える、風味と弾力に富んだ凍り豆腐も少なくない。

右ページ左下に見える人物が、板に並べて豆腐を凍らせ、高野豆腐をつくっている。『紀伊國名所圖會』より(国立国会図書館蔵)

一方のごま豆腐は、調理に“精進”が必要とされる豆腐である。

豆腐とは名前がついていても大豆は一切不使用原料はごまと葛と水である。擂(す)った白ごまを搾り、水で溶いた葛粉と合わせて火にかけ、鍋底に一文字が書けるまで30分以上、木べらでひたすら練ってつくる。

巷では、葛以外のでんぷんや大豆などを使ったごま豆腐を目にすることもあるが、まったくの別物である。

“手間も食べていただく”という、精進料理のもてなしの心を知れば、香り豊かなごま豆腐がお膳の顔として供されることに深くうなずける。

『高野山インサイトガイド 高野山を知る108のキーワード』

『高野山インサイトガイド 高野山を知る108のキーワード』

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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