国民的バンドに押し上げた3枚目のシングル「いとしのエリー」
そんな桑田佳祐の書いた楽曲の個人的な3曲の先頭は「いとしのエリー」だ。サザンオールスターズのアルバム『10ナンバーズ・からっと』に収められた、ファンなら誰でも知っている名曲だ。この曲はサザンオールスターズの3枚目のシングルとして大ヒット。一躍彼らを国民的バンドに押し上げた。
実はこの曲にはエピソードがある。「勝手にシンドバッド」、「気分しだいで責めないで」というそれまでのシングルは、どちらかというとコミック・タッチだった。3曲目も同じ路線を期待したレコード会社では、「いとしのエリー」に関しては反対の声も上がった。サザンオールスターズは、バンドの解散も辞さない姿勢で、「いとしのエリー」のシングルを押し進めた。結果、大ヒットとなり、サザンオールスターズはファンでない人すら知っている人気バンドとなった。
この曲の大ヒットがなかったら、サザンオールスターズも存在していなかったかと思うと、まさに入魂の名曲と思うのだ。昭和を代表する名曲のひとつで今聴いても古さはなく、スタンダードな魅力に満ちている。
ファンやスタッフを時々は裏切って、さりげなく名曲を
2曲目はアルバム『ステレオ太陽族』の中の「My Foreplay Music」だ。シングルカットはB面ながら、ファンの愛する楽曲のひとつ。ダイレクトに男と女のセックスを歌っている。それがまったくいやらしく感じないのは、桑田佳祐の書いた軽快ともいえる詞とエモーショナルなメロディーの一体感が生むロマンチシズムにある。ベタつきそうなセクシー・ソングを嫌味なくサラっと聴かせる。桑田佳祐の妙技を感じさせる曲だ。
3曲目は「愛の言霊(ことだま)~Spiritual Message~」でシングルとなっている。アルバム『Young Love』に収められた。この曲には桑田佳祐の愛が充満している。梅田英春によるラップが入っているのだが、その内容は歌では語りつくせない、桑田佳祐の人間への愛やこの星~地球への想い、自分はどこから来たのかという存在への疑問となっている。
それらは、愛の言霊として音楽に包み込まれ、ファンに届けられたのだ。サザンオールスターズのシングルの中では、大ヒットと呼べなかったが、メッセージ性に桑田佳祐の心情があふれている。こういった曲の詩を書き、それにふさわしいメロディーにしてしまう桑田佳祐にはただただ驚かされた。
御紹介した3曲を聴くとサザンオールスターズ及び桑田佳祐が、単なるヒットメイカーでないことが分かると思う。ファンやスタッフを時々は裏切って、さりげなく名曲を残してゆく。そういったところにも桑田佳祐の奥深さが垣間見える。
岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo」で、貴重なアナログ・レコードをLINNの約350万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。
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