愛知県に離島が3つあることをご存じでしょうか。「篠島(しのじま)」「日間賀島(ひまかじま)」「佐久島(さくしま)」です。名古屋圏では身近な行楽地として知られた存在ですが、首都圏を含め他の地域で暮らす方々には、ほとんどなじみのない島なのではないでしょうか。JR東海は2021年12月から2022年3月まで、3島の食や観光スポットをはじめ愛知県の人気グルメを広く伝えるためのキャンペーンを実施しています。師走に入って、その3島を訪れました。知多半島と渥美半島に囲まれた三河湾口部寄りに位置するこの3島は、風光明媚な環境はもちろん、豊かな海の幸も魅力です。そして島ならではの楽しみも。第2回では、「タコ」と「フグ」で有名な「日間賀島」で味わった絶品料理と人生初の“調理”など貴重な体験を振り返ります。
画像ギャラリータコの駐在所、タコのモニュメント…「タコ」がお迎え フグも特産品に
篠島から、定期高速船でわずか10分。来た航路を戻って、日間賀島の玄関口の西港に到着します。
出迎えてくれたのが「タコ」でした。高速船乗り場から向かって左側の背後には、「歓迎 日間賀島 西港」と書かれたタコのモニュメント。そして、右側の少し高台には、タコを模した駐在所が見えます。
今回は、河和(こうわ)港から定期高速船に乗るコース(約20分)でしたが、知多半島突端の師崎港からだと2・4kmの近距離でわずか約10分。一周約5・5km、一番高い地点でも約30mの平坦な名古屋から一番近い島です。
島民は1806人(2021年3月末現在)で、3島(篠島1581人=2021年3月末現在、佐久島212人=2021年12月1日現在)で一番多い人口を誇ります。面積は0・77平方kmで3島(篠島0・94平方km、佐久島1・73平方km)の中で一番小さく、日本の離島では一番の人口密度です。ちなみに人口密度2位は篠島。南知多町の離島2島が、上位を占めています。
島には、古くから「タコと阿弥陀如来の伝説」が伝わっています。昔、地震があって、日間賀島と佐久島の間にあった島の寺の阿弥陀如来像が海に沈みました。後に漁師の網に掛かって引き上げたところ、阿弥陀如来像を守るかのように大ダコが絡みついていたのだそうです。
この伝説に加え、島ではタコの餌となるアサリやカニが多く生息していることからタコが豊富に獲れました。これらのことから、観光資源にしようと、「タコの島」を全面的にアピールしてきました。
平成に入ってからは、フグの漁獲量が増え、特産品に。以来、日間賀島では「多幸(たこ)の島 福(フグ)の島」として、大々的な周知活動を行っています。トラフグをはじめ、サバフグやミズフグなども獲れます。
厚みのある「てっさ」 日間賀島は「宿ごとにポン酢が違う」
日間賀島では、約60軒の旅館・民宿が営業しています。今回、宿泊したのは西港から徒歩1分ほどの観光ホテル「大海老」です。
タコは通年ですが、フグは10月から漁が解禁となり、翌年3月にかけて味わえます。夕食のメニューは、まさに、フグとタコ尽くしでした。卓上には、大皿にてっさが盛り付けられ、てっちりの鍋がコンロに置かれています。
まずは、トラフグのてっさをいただきます。小皿のポン酢に軽く付けて、口に運びます。身は、弾力に富んでプリプリです。厚さは2mmほど。ほどよい厚みで食べ応えがあります。ポン酢も酸味と旨味のバランスが絶妙です。
「日間賀島は、宿ごとにポン酢が違うのが特徴です。どれも自家製です」。宿の方が、そう教えてくれました。「(大海老は)ユズやスダチを、他の宿よりも多めに入れています。だから、キレがあるでしょう?」
たしかに、そう言われると、さわやかなキレを感じます。それにしても、このコクがいい。聞くと、醤油は、同じ南知多町の蔵元「徳吉醸造」(所在地は知多半島)の「イチヤマト たまり醤油(まろみたまり)」を使っているとのこと。「昔からの杉樽仕込みの醸造による本物の味を引き継いで参りました」と、藏元のホームページにあるように、“本物の味”を実感しました。
炙った白子がクリーミー、てっちり、焼きフグ、唐揚げ…フグ尽くしに舌鼓
炙ったフグの白子も絶品でした。ほのかなきつね色が食欲をそそります。クリーミーで、ほどよい塩気。ポン酢をつけると、酸味でまろやかさが際立つ印象です。
てっちりは、まさに王道でしょう。淡泊なフグの上品な味わいがたまりません。ここでも、ポン酢は大きな役割を果たします。
炭火で焼きフグにすると、淡泊な味わいのフグに、香ばしさと旨味が加わります。ホテルの方に聞くと、「しこの露」という魚醤を付けて焼いているとのこと。南知多町の豊浜漁港に水揚げされる伊勢湾で獲れた新鮮なカタクチイワシが原料の無添加の天然調味料です。「魚醤は匂いにクセがありますけど、焼くことで香ばしくなるんです」。ホテルの方の説明に納得です。
フグの唐揚げは、サクサクでジューシー。一味をふり、調味料(たまり醤油1に対し、料理酒2)に30分漬け込んだ後に、揚げます。この調味料に片栗粉もまぜて、衣にするので、フグの旨味が出るといいます。たしかに、衣にもしっかりと味が付いていて、ご飯が欲しくなるような深みのある美味さです。
最後には、鍋で雑炊。なんともいい香りがあって、やさしい味わいでした。
“島外不出”の至高のグルメ 真ダコを丸ゆで、足1本を丸かじりの贅沢
フグと同時に、日間賀島の昔からの代表的グルメともいうべき存在がタコです。島の周囲には、約1万個のタコ壺が仕掛けられています。
看板料理は、真ダコを1匹使った塩ゆで。直径2cmほどもある足を1本丸かじりする贅沢に、思わず表情が緩みます。塩味が絶妙で、旨味が口の中に広がります。それに弾力があって、歯応えがたまりません。これは、美味い!
日間賀島のタコ壺で獲れたタコは量が少ないので、基本は島内でしか食べることのできない“門外不出”の逸品だそう。これこそ、日間賀島に来た幸せを実感できる至高のグルメだと思いました。
干しタコを自分で作る 叱られながらも楽しい体験
食事のほかにも、貴重な体験が日間賀島ではできます。干しタコを自分で作れてしまうのです。「ひっぱりダコ」の語源という説も。干されたタコが民家の軒先で揺れる光景は、日間賀島の秋から冬にかけた風物詩だということです。
翌朝、向かった先は、大海老から歩いて3分ほどの町中にある「かねと商店」。自ら生のタコを調理するという経験は、生まれて初めてです。まずは、ヌメリを取ります。それから、わた、軟骨を手で取り除き、包丁を使って干しやすいように開きます。秘伝のタレに漬けて、店先に干すまでの作業です。
調理中は、お店の方から厳しい指示が飛びます。全ては美味しい干しタコを作るための“愛情表現”です。叱られながらも楽しい体験でした。午後は佐久島を訪れ、午後3時過ぎには戻ってきましたが、もう干しタコは完成していました。風の具合などにもよりますが、通常3~4時間も干せば出来上がるそうです。
レンタサイクルで島を一周 “ハイジ”を連想するブランコ
干しタコ体験のあとは、レンタサイクルで島の外周を走ります。右側に穏やかな海を眺め、ゆっくりとペダルをこぎます。暖かな陽光が、日常のストレスを緩和してくれます。海からのそよ風が心地いい。
途中立ち寄ったのが、「恋人のブランコ」と呼ばれる大きな木に吊り下げられたブランコ。長いロープが、あの名作アニメ『アルプスの少女ハイジ』のオープニングに登場するブランコを想起させます。かなりの人気スポットで、他人がこぐのを眺めていると、見る間に後からやってきた観光客が順番の列を作り始めました。
夕陽の美しさにしばしたたずむ 訪れた「マジックアワー」
日間賀島で印象に残った光景が、他にもあります。美しい夕陽です。高速船が発着する西港は、夕陽の絶景スポットでもあります。初日の夕食前に、西港の防波堤を散歩しました。シルエットになった釣り人の向こう側で、まさに、太陽が海の彼方に沈もうとしています。夜の濃い青が次第に夕陽のオレンジ色を小さくしていきます。空の色が魔法をかけられたように刻々と変化する「マジックアワー」が訪れました。
至福の海鮮料理、そして普段はできないような体験に、日ごろでは味わえない充足感を覚えました。「多幸(たこ)の島 福(ふぐ)の島」のキャッチコピーを眺めていると、得心します。多幸とは「非常に幸せ」の意味ですが、新鮮で絶品の海の幸が非常に多いことと、個人的にとらえました。そして、それを味わうことで、誰もが「福」=「幸福」な気持ちになれる―――。帰路の高速船で、次第に遠くなる風景に島での記憶を重ねながら、そんなことを思いました。
文・撮影/堀晃和
※JR東海では、2021年12月1日から2022年3月31日にかけて、愛知県の人気の海の幸「フグ」と「タコ」に注目した「あいちフグタコ」キャンペーンを実施しています。「ずらし旅 選べる体験コンテンツ」として、フグとタコの島として知られる日賀間島での「干しタコ体験」などが選べる「日賀間島満喫パス」など魅惑のコンテンツも。
https://recommend.jr-central.co.jp/zurashi-tabi/activity/aw/#aichi_b
また、JR東海のEXサービス会員だけが利用できる「EX 旅のコンテンツポータル」では、「愛知の離島めぐり」を販売。日間賀島・篠島・佐久島を結ぶ海上交通が用意されているほか、篠島の「&しらす食堂2929」など3島の計12施設で使える「島たびクーポン」もセットになっており、3島を満喫できる内容となっています。
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