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日本酒はどんな肴も受け止める懐の深さがある

市村:先ほど、日本酒にはさまざまな味わいがあるとお話ししましたが、種類についての詳細は次回以降に譲るとして、私は旨い肴とお酒があれば満足して飲んじゃうんです。

なので、銘柄などは料理に合わせてお店にお任せすることが多いのですが、『青天上』では食べ物との組み合わせはどうお考えですか?

齋藤:『青天上』の看板商品である焼き鳥は「総州古白鶏」という鶏を使っています。比較的淡泊な味わいで食べ飽きない旨さがあります。かつ焼きダレは日本酒とのペアリングを考えて仕込んでいるので、アテとして日本酒を楽しんでいただきたいですね。

ある日の『青天上』の料理。日本酒は60ml400円〜提供している。「選べる日本酒飲み比べ3種セット」1000円も
ある日の『青天上』の料理。日本酒は60ml400円〜提供している。「選べる日本酒飲み比べ3種セット」(1000円)

市村:私が『青天上』で、「やきとりおまかせ5本盛合せ」(650円)と一緒にいただいたのが、「選べる日本酒飲み比べ3種セット」(1000円)です。内容の説明をお願いできますか?

齋藤「村祐(むらゆう)」(新潟/村祐酒造)は、“新潟の酒といえば淡麗辛口”とされていた市場に風穴を空けた蔵とされています。「村祐」をきっかけに日本酒を飲むようになった方も多く、僕もそのひとりかもしれません。というか、単なる「村祐」のファンです(笑)。

飲んだ人が純粋に美味しいかどうかを感じられるよう、先入観を無くすために表記されているのは最低限の情報(アルコール度数と特定名称)だけで、精米歩合、日本酒度、酒米の品種、酸度などその他のすべてが非公開になっている、なんともハードコアなカッコイイ思想にやられてしまいました。

よく世間では和三盆のような味わいと例えられていますね。

「田酒(でんしゅ)」(青森/西田酒造店)の特別純米も名酒で、初心者から玄人までクリアで飲み飽きしないと思います。「華吹雪」という酒米を使ったスッキリとコクがある、食中酒としてトップクラスの味わいですね。白米と合う料理ならなんでも来いといったイメージです。

「醸し人九平次(くへいじ)」(愛知/萬乗醸造)は、いつ飲んでも鮮やかでジューシーで“流石だな~”というひと言に尽きます。

海外のミシュラン星付き店のワインリストに入っていたりして、日本酒の存在を世界で知らしめた酒のひとつではないでしょうか。

ジューシーでフルーティーさをもつ「王禄」と「直虎」

斎藤一般的にフルーティな日本酒は料理と合わせづらいと言われていて、酒単体で楽しむ食前酒や食後酒にまわりがちです。写真の「王禄(おうろく)」(島根/王祿酒造)は柑橘っぽさと旨みがあり上質な白ワインを彷彿とさせます。「直虎」(長野/遠藤酒造場)は「愛山米」を使っており、甘みとコクがあります

香りの高さから魚介、特に赤身の刺身など生臭さが強いものほど相性は良くないと言われがちですが、そんなことは無いと思います。蔵の方には失礼かもしれませんが、白ワインのようなマリアージュと説明するとお客さんもイメージしやすいみたいですね。

市村:お客さんに日本酒の説明をするときに気をつけていることはありますか?

齋藤:私の仕事としては、直接消費者の方とセッションできる立場から、広く楽しんでもらえるように伝えられたらと思っています。

蔵元さんの日本酒に対する熱意であったり、ストーリーだったり、日本酒の枠を超えて同じ商売人として感銘を受けることが多々あります。ですから味を説明するというより、そのお酒の背景をお伝えするほうが多いような気がします。

こういった名だたるお酒と合わせて、お客様から美味しいと言っていただけるのは最高ですね。

市村:最後に、齋藤さんから見て、日本酒の魅力とは、どんなところだと感じますか?

齋藤とても奥深いものなのに自由度が高くて、振り幅が広いところです。冷やしても温めても、ロックや先ほどのように炭酸などで割ってもいいと思うんです。

例えば「黒龍 純米吟醸垂れ口」(福井/黒龍酒造)というお酒は、時期限定なので季節感を楽しむにはもってこい。濃厚な味ながらキレもあり、かつフルーティ。香りは若々しくアルコール度が高い生原酒です。派手なのに食中酒にも合わせられる、素晴らしいバランスをもっています。

スーツをカッチリと着ているのに、ネクタイだけ豹柄でオシャレみたいな感じでしょうか(笑)。生酒を燗にするなんて邪道だと言う人もいますが、僕はぬる燗にしてガス感を抜き丸くして、楽しむのもありだと思います。

このようにいろいろな飲み方や自分なりにカスタマイズして楽しめる、無限の可能性があるのが日本酒なんだと感じています。

次回は、日本酒の歴史についてご紹介します。【第2回に続く】

■『焼き鶏 青天上(あおてんじょう)』

『焼き鶏 青天上』
『焼き鶏 青天上』

「お酒とは飲む人が楽しくなるツールであるべきで、そのバックボーンにあるのが居酒屋だと思っています」と話す齋藤さん。焼き鳥がメインの1号店は丸ノ内線南阿佐ヶ谷駅から徒歩1分、その斜め向かいに2号店の『魚肴 青天上』がある。2021年6月には、3号店となる西荻窪店(上写真)をオープン。1号店と2号店のいいとこ取りだ。

[住所]東京都杉並区西荻南3-24-1
[電話番号]03-6913-7719
[営業時間]15時~24時(23時LO)
[休み]無休
https://www.instagram.com/aotenjo/?hl=ja

取材・撮影/市村幸妙

参考文献:『新訂 日本酒の基』(NPO法人FBO)、「日本酒輸出の推移」(「酒のしおり」国税局)https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/shiori/2021/pdf/000.pdf、酒蔵プレス(https://www.sakagura-press.com/sake/export_sake_2020/

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市村 幸妙
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