動物写真家・小原玲さんを語る

不肖・宮嶋、 動物写真家・小原玲さんを悼む(前編)北海道から届いた1本のレンズ

アザラシの赤ちゃんやシマエナガなどの撮影で活躍した動物写真家の小原玲(おはら・れい)さんが、2021年11月17日、肺がんのため亡くなりました。60歳でした。小原さんは、写真週刊誌『フライデー』の専属カメラマンを皮切りに…

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アザラシの赤ちゃんやシマエナガなどの撮影で活躍した動物写真家の小原玲(おはら・れい)さんが、2021年11月17日、肺がんのため亡くなりました。60歳でした。小原さんは、写真週刊誌『フライデー』の専属カメラマンを皮切りに、フリーの報道写真家として国内外で活躍後、動物写真家に転身。人の心を明るくするような無垢な生き物を追い続けました。小原さんと、1984年のフライデー創刊期からの同僚で、報道カメラマンの宮嶋茂樹氏(60)が、亡き親友との思い出をつづります。

ドイツの名門ライカを代表する傑作レンズ「ズミクロン」

年の瀬が押しせまった11月18日、北海道から訃報が届いた。フライデー編集部カメラマンの同僚でもあり、後に報道写真家、動物写真家としても名声を得た小原玲氏が他界した。

そして年明け早々、同じく北海道からレンズが一本届いた。ライカM型用のズミクロン50mmf2.0、シャープな切れ味が売りの国産レンズと違い、高い解像度とやわらかいボケ味で定評のある、ドイツの名門ライカを代表する傑作レンズである。

小原氏が「モモンガ」の撮影のため網走に借りていたアパートの一室で遺品を整理していた御遺族や、彼の熱意に打たれ撮影の協力を惜しまなかった地元北海道のカメラマン氏らの目に最新の機材にまじってポーチにくるまれた一本の古いレンズが止まったという。それがこのズミクロンだった。

宮嶋氏のもとに届いた「 ライカM型用のズミクロン50mmf2.0 」

(まさか…あの時のか?)

出会いは「フライデー」編集部 仇名は「ボンネット乗りの小原」

小原氏との出会いは37年前、二人とも創刊したばかりの写真週刊誌フライデーの専属カメラマン、年齢も同じ23歳、ただ彼は群馬県立前橋高校時代は写真コンテスト荒らしで有名だったと後に知った。高校卒業後は国立茨城大学に進学、写真は大学写真部で腕を磨いていた。

フライデーカメラマンとなってからの二人の関係は同じフライデーの看板を背負う…もとい同じ腕章を巻く同僚とはほど遠いものだった。共に学校出たばっかのイケイケの恐いもの知らず、特に小原氏は体格もでかく、多くのカメラマンが殺到する現場には、敵味方かまわず周りのカメラマンを蹴散らすがごとく被写体に突進し、まさにR・キャパの残した名言「あなたの写真が良くないのは近づき方が足らないからだ」を体現したカメラマンであった

特に護送される犯人や疑惑政治家の乗った車への正面からの突撃はすさまじく、当時ついた仇名が「ボンネット乗りの小原」。てな訳で不幸にも同じ現場に立とうもんなら、お互いチームワークなんてどこ吹く風。

常に私の前には彼が立ちふさがり、まさにまさに目の上ならぬ「目の前のたんこぶ」、信頼すべき同僚というより、憎むべき敵といった方がふさわしかった

病室の田中角栄元首相を捉えたスクープ写真

そんな彼が特に目をつけ追いかけ回したのが、当時の最高権力者、田中角栄元首相であった。フライデー時代のスクープとして有名なのが、逓信病院に緊急入院した田中角栄氏をお堀をはさんだむかい側の東京理科大から超望遠レンズで、病室の窓越しに捉えた作品であった。

『フライデー』(1985年4月19日号)掲載。田中角栄元首相の病室
『フライデー』(1985年4月19日号)の記事によると、この2つの写真は「焦点距離2千800mmの超望遠レンズが捕らえた」

竹下登元首相の車に突進!

晩年、本人もSNS上でのプロフィールの中で紹介していた自らが偶然写された写真も、田中角栄邸に入ろうとしたものの門前払いを食わされ引き下がろうとしていた竹下登元首相の車に襲いかかるシーンであった。それは竹下氏の乗った高級車にカメラを手にして一番近づいているのが小原氏、そのすぐ後が当時フライデーのライバル誌フォーカスのKカメラマン、そのさらに後ろでもたついているのがまだ髪の黒い私である。

『フライデー』(1987年1月23日号)掲載。竹下登元首相(当時・自民党幹事長)が元日、東京・目白の田中邸を訪問した際の一枚

当時は写真週刊誌乱立時代、カメラマンは事件事故、芸能、社会問題、政治にスポーツまでジャンルを問わず現場に駆り出された。張り込みに突撃取材に潜入と今となってはとてもできぬ無茶もやってきた。

ペン一本でメシ食える有名ジャーナリストやお上品な新聞社の社カメとちがい、翌週にはクレジット入りの同じ現場の写真が各誌に載り、その優劣が判断されるという毎週生存競争を勝ちつづけなければならなかったのである。

不肖・宮嶋

ライカのカスタムカメラに驚く

そんなシュラ場をいくつも踏むうちに、我々は技術を磨き、腕もあげていった。なかでも隠し撮り用のカスタムカメラを各カメラマンは知恵を絞り開発、自作していた。そのほとんどがオリンパスOMシリーズの小型一眼レフカメラや廉価な自動巻き上げ式のコンパクトカメラをベースにしたが、小原氏は何とライカにモータードライブをはかせ、メカニカルレリーズをつなげたのを作りあげた

「(一眼レフと違い)音がしないんだよ、これ」と胸を張る彼に「これいくらかかったんだ?」と我々は目を白黒させた。

年頭に届いたズミクロンはその時のカバンカメラに付けられたレンズ…のわけじゃあるまい。

二人はそんなフライデー時代にほぼ同じ時期に最初の結婚式を挙げる。その後もこれまたほぼ同じ時期にフライデーから足を洗った

【不肖・宮嶋、 動物写真家・小原玲さんを悼む(後編)に続く】

※小原さんは『シマエナガちゃん』シリーズ(講談社ビーシー)などの写真集がベストセラーとなり、死の直前まで北海道でモモンガの撮影に挑んでいました。

写真集『シマエナガちゃん』(講談社ビーシー)
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