カスタムサンドの組み合わせはなんと1万種類以上! グルテンフリーのパンと、通常のパン、どこが大きく異なるのだろうか。 「通常のパン作りのときは、グルテンの働きによりボリュームを出したり、もっちり感を出すことなどを考えてい…
画像ギャラリー2022年5月、東京都世田谷区の人気ベーカリー『Comme’N TOKYO(コム・ン トーキョー)』の向かいに『Comme’N GLUTEN FREE(コム・ン グルテンフリー)』がオープン。
その名の通り、グルテンフリーのパンや焼き菓子などが並び、小麦アレルギーの方の選択肢を広げる逸品が揃っている。食物アレルギーはいつ誰もがなってもおかしくないからこそ、ぜひチェックいただきたい。
みなさんは大丈夫? アレルギー患者が年々増加中
身の回りで、さまざまなアレルギーが増えていないだろうか? かなり身近なところでは花粉症やハウスダスト、もちろん甲殻類や果物といった各種の食物アレルギーなど。
そんななか、もしなってしまったら非常に悲しいと容易に想像がつくのが、小麦アレルギー(なられている方、ごめんなさい)だ。
小麦粉を使っているものがNGだと、食べられるものってかなり少なくなる。
メカニズムは完全には解明されていないものの、特定の食品を摂り続けていると発症することもあるとされる食物アレルギー。我々『おとなの週末』のライターは、特集により同じものを食べ続けることがよくあるので、いつなってもおかしくないのかもしれない。
食物アレルギーは、食事の選択肢の自由を奪うだけでなく、友だちなどとの食事の機会=楽しみを減らしてしまうなど、日常生活に支障をきたすこともあるので思っている以上に深刻だ。
都内屈指の人気ベーカリーがグルテンフリーのパンに挑む
ひっきりなしにお客さんが訪れる、九品仏のベーカリー『Comme’N TOKYO(コム・ン トーキョー)」。2020年8月にオープンしたこちらの人気の秘密は、小麦の特性を生かした芳醇な香りと豊かな食感のパンがいただけること。営業時間中は焼きたてのパンおよそ80種類程度が、入れ替わりながらどんどん並ぶ様は圧巻だ。
そんな人気ベーカリーのオーナーシェフである大澤秀一さんが今年、完全グルテンフリーのパン作りに挑んだ。
このベーカリーのオープンに至ったきっかけは、『コム・ン トーキョー』で修業していたスタッフ・佐藤優奈さんの存在。年々ひどくなる小麦アレルギーにより退職を余儀なくされたが、パン作りへの強い思いを絶ちきれなかったのだそう。
その思いを汲み、『コム・ン グルテンフリー』の立ち上げメンバーとして呼び込み、スタッフに抜擢した。
「これまで食品アレルギーの方は、消去法で食事を選ぶことが多かったと思うんです。でもこれもあれもと選ぶ喜びを感じ、おいしく食べていただけたらうれしいです」(大澤さん)
グルテンフリーのサンドウィッチ類のほか、パンは約20種類、焼き菓子などは8種類ほどを揃えており、本当によりどりみどりでうれしくなってしまうのだ。
カスタムサンドの組み合わせはなんと1万種類以上!
グルテンフリーのパンと、通常のパン、どこが大きく異なるのだろうか。
「通常のパン作りのときは、グルテンの働きによりボリュームを出したり、もっちり感を出すことなどを考えていました。その技が封じられた中で、極力“パンらしい食感”を出すために、米粉のほかライススターチやタピオカ粉といったデンプンを使うなど、いろいろ試しました」と大澤さん。
『コム・ン グルテンフリー』では、このデンプンを泡状にしてパンをふくらませるのだが、焼いた際に周りはサクッとしても中がギュッと詰まってしまい、どうしても硬くなってしまうという課題にぶつかった。
そこで講じたのが、通常通りに焼けばスライス8枚分ほどが取れる型で、1枚ずつ焼き上げるということ。なんともアタマが下がる工程を経ているのだ。
看板商品のひとつであるカスタムサンドウィッチは、パン、具材、ソース、トッピングを選ぶことができ、なんと1万通り以上の組み合わせが可能だ。
パンは「パン・ド・ミ プレーン」、「六穀ブレッド」、「黒米パン」、「玄米パン」の4種類を用意。
例えば「グルテンフリー サンドイッチ」(1296円)は、上記のパンを選んだら、7種の野菜とメインの具材8つから、それぞれ2つずつセレクトする。
また「グルテンフリー ホットドッグ」(918円)のパンは「玄米粉のトルティーヤ」または「豆乳コッペ」。2種の野菜、メインの具は12種類、7つの味付けから組み合わせられる。
厳選したソーセージもグルテンフリー。実際に市販されているソーセージには、つなぎなどにグルテンが入ったものも多いのだとか。
その他、調味料なども含め徹底してグルテンフリーなので、安心していただくことができる。
いざ実食! たまごサンドのソースにビックリ
これだけあるので、食いしん坊のライター・市村は、いざ食べるときにアレコレ悩んでしまい、決めるまでに難儀してしまった。
大澤さんにオススメを聞きつつ、調理法の異なる4種類の玉子、ソースは2種、味付けは4つから選べる「グルテンフリー たまごサンド」(702円)をカスタムしてみた。
オーダーは「パン・ド・ミ プレーン」、「厚焼きたまご」、「自家製マヨネーズ」に、「とろーり天津」。
「天津……?」とつぶやくと、大澤さんは「天津飯にかかっている、あのソースです。僕が天津飯が好きなので」と笑う。
グルテンフリーの「パン・ド・ミ」は、米粉パンらしいやさしい甘みと密度の高さが特長だ。
「厚焼きたまご」は、カツオダシが効いた玉子の存在感がしっかり。玉子をパンのサイズに合わせて型に入れ、オーブンで焼いているが、うまく固まらなかったり爆発してしまったり、完成するまでかなり苦労したのだとか。
天津のソースは、ケチャップベースで柔らかな酸味と甘さが魅力だ。ほんのり甘い出汁巻き玉子とマッチし、パンにしみた部分も美味しい。
実は他と同じに見えるたまごサンド用のパンだが、こちらには醤油を少し加えており、玉子に合う風味豊かな味わいに焼き上げている。
グルテンフリーパンだから実現したおいしさとは
このように試行錯誤を繰り返しながら作られたグルテンフリーパンだが、意外な副産物があった。
「通常のパンの場合、レンジアップするとカチカチに硬くなってしまいます。でもグルテンフリーのパンは、電子レンジを使っても焼きたてのようにふわふわに戻るんです。これまでにはなかった感動でした」(大澤さん)
その特性を活かして作られたのが「リゾット」(各種810円)。グルテンフリーパンの上に、素材の旨みたっぷりの玄米リゾットがのっている、炭水化物ラバーにはたまらない逸品だ。
これを500w〜600wで1分半~2分ほど軽くレンジアップすることで、上のホワイトソースがとろりと流れ出し、パンにしみ込んでいく。
2種のうちのひとつ「海のリゾット」をいただく。シーフードの旨みと生クリームなどのコクが濃厚でガツンとくる。パンにしみたソースに思わず「んまっ!」って言ってしまった。これはもうひと皿の料理のよう。
その他のパンも定番やココだけの逸品がズラリ
「粒あんぱん」(238円)や「メロンパン」(270円)といった定番はもちろん、大澤さんが世界的なパンの大会で日本人初総合優勝を飾ったお店を代表するメニューがベースの「桜と日本酒のパン」(432円)などが並ぶ。
「桜と日本酒のパン」の生地としては食べ応えがあるのだが、桜の香りと日本酒の甘みがふわりと感じられるから全体に軽やか。
大澤さんはこのパンについて、「海外では赤ワインや白ワインを使ってパンを作ることがありますが、日本らしさを打ち出したいと日本酒を使い、桜を練り込んでいます」と教えてくれた。
本店でも人気の「クロックムッシュ」(616円)は、もちもちの生地に、なめらかな自家製ホワイトソース、表面のチーズの塩気や焦げ目のバランスが抜群。本店の「クロックムッシュ」(453円)はふかふかの生地なので、食べ比べてみるのも一興かもしれない。
焼きたてパンがどんどん並ぶ本店同様、グルテンフリーのパンが次々に店頭に出てくるのがうれしく、選ぶのが悩ましい。
こんな魅力が詰まった『コム・ン グルテンフリー』。グルテンフリーパンの新たな楽しさに気付かされるだろう。
■『Comme’N GLUTENFREE(コム・ン グルテンフリー)』
[住所]東京都世田谷区奥沢7-19-12
[営業時間]7時〜18時
[定休日]火・水
[交通]東急大井町線九品仏駅から徒歩1分
https://commen-gf.jp/
https://www.instagram.com/comme_n_gf/
取材・撮影/市村幸妙
参考文献:『大人の食物アレルギー』(福冨友馬 著/集英社新書)