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「飾りじゃないのよ涙は」 真のアーティストへの変身を予感させる

極私的中森明菜の3曲のその2は、井上陽水の作詞・作曲による大ヒット曲「飾りじゃないのよ涙は」。私は泣いたことがない。泣いたりするのは違うと感じている。しかし、いつか私の世界が変わる時に、私は泣いたりするんじゃないかと感じている。ある意味、暗い歌だが、バックのサウンドは割と速いビートを刻んでいる。

彼女のどこか投げやりで、でも歯切れの良い歌唱とサウンドのバランスが絶妙だ。このころ、中森明菜はアイドル人気の絶頂にいたが、いつかはアイドルではなく、売れようが売れまいが関係ない、真のアーティストに変身することが予感される歌唱だった。

「黄昏のビギン」 感情を入れ過ぎないで悲しみを表現

極私的中森明菜の3曲のその3は、『歌姫2』に収められた「黄昏のビギン」だ。永六輔作詞、中村八大作曲のこの歌は、元々は水原弘の1959年のシングル「黒い落葉」のカップリング曲として歌われた。その時は大きな話題にならなかったが、ちあきなおみが1991年にカヴァーしてシングル発売し、じわじわと人気が広がった。さだまさし、稲垣潤一、岩崎宏美、鈴木雅之、薬師丸ひろ子など数多くのミュージシャンがカヴァーしている。

中森明菜が数多く残しているカヴァー・ソングの中では比較的、地味なレパートリーかも知れない。個人的には、この歌はかなり難しい楽曲だと思う。感情を入れ過ぎないようにして、悲しみが表現できないといけない。中森明菜はその辺りのさじ加減がうまく、ちあきなおみのどちらかというと昭和レトロな表現と対峙する現代的センスで歌えていると思う。

2022年夏現在、中森明菜は活動休止中だがネット記事の中には、年度末の紅白歌合戦で活動再開ではというものも散見する。もし、そういった記事が当たりで、紅白歌合戦で歌うのであれば、彼女が本当に今歌いたい曲を歌って欲しいと切に願う。

1989年の伝説ライヴを収めたCD『AKINA EAST LIVE INDEX-XXIII』(左上)など中森明菜のアルバムの数々

岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。

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