戻りがつお、さんまなど、秋は魚が美味しい季節。脂ののった旬の魚は刺身で食べたいですよね。ここで気になるのがアニサキス。最近、アニサキスが原因で激しい腹痛に襲われたといった人のニュースなどが流れ、不安に思っている人も多いと…
画像ギャラリー戻りがつお、さんまなど、秋は魚が美味しい季節。脂ののった旬の魚は刺身で食べたいですよね。ここで気になるのがアニサキス。最近、アニサキスが原因で激しい腹痛に襲われたといった人のニュースなどが流れ、不安に思っている人も多いと思います。
厚生労働省「食中毒統計資料」でも秋は特にアニサキスによる食中毒が多くなる季節で、10月は1年でもっとも発生件数が多い月となっています。
アニサキスに怯えつつでは、旬の魚の美味しさも半減してしまいますよね……。しかし、アニサキスのことを正しく理解して、対処法を知れば、不安な気持ちが払しょくできるはずです。今回は、アニサキスを正しく恐れるための基礎知識をご紹介します。
文/田村順子(フードライター)、写真/写真AC
酢でも醤油でも死滅しない厄介な寄生虫「アニサキス」とは?
先の厚生労働省「食中毒統計資料」のデータによると、アニサキスが原因で発生する食中毒は全体の食中毒の約40%を占めていることがわかっています。
アニサキスとは、白く半透明でサイズは2~3cmほどの寄生虫です。さば、さんま、あじ、かつお、ぶり、鮭、いか、たらなどのほか、オキアミを餌にしている魚や、いかを餌にしている魚に寄生しています。
魚種によって差はありますが、水揚げした魚のサンプル調査によると、アニサキスが寄生している魚の割合はかなり高いことが明らかになっています。ただし、そのほとんどは内臓に寄生していて、お刺身にする身の部分からアニサキスが検出される割合は低いことがわかっています。つまり、お刺身のすべてにアニサキスが寄生しているというわけではないということです。
魚が生きている間は、内臓に寄生していますが、死んでしまうと内臓から筋肉内に移動することがあります。そのため、安心してお刺身を食べるためには釣った直後に内臓を取り除くことが必要です。
残念ながら、酢漬け、塩漬け、醤油、わさびでアニサキスは死滅しません。実際、しめさばが原因のアニサキスも発生しています。
アニサキスを食べてしまってもほとんどの人は無症状!?
実は、アニサキスを食べてしまっても必ず激しい腹痛や嘔吐に襲われると限りません。アニサキスは通常は体内に入るとそのまま排せつされてしまうため、96~97%の人はごく軽い症状か、無症状ですんでしまいます。つまり、家族全員がアニサキスの寄生していたお刺身を食べたとき、あなただけが激しい腹痛に襲われ、ほかの家族はケロリとしているなんてことは決して珍しいことではないのです。
一般的に食事後、数時間~10数時間後にみぞおち付近に激しい痛みを感じたり、吐き気や嘔吐が生じたり、発熱や頻脈などの症状がみられます。 稀に、数日後に症状が出る場合もあります。
激しい腹痛で七転八倒する原因は、胃粘膜に噛みついた物理的な刺激ではなくアニサキスが分泌する物質のアレルギーによる刺激だと言われています。アニサキスが胃壁にとどまり症状が出るものを「胃アニサキス症」と呼ばれ、胃カメラによってアニサキスを取り除くとすぐに激しい症状は収まります。
いっぽう、腸壁にとどまり症状が出るものは「腸アニサキス症」と呼ばれます。こちらは、内服薬を用いた治療となります。症状は、胃アニサキス症とほぼ同じです。
今は無症状でも……怖いアニサキスアレルギー
無症状がほとんどということで少しホッとしている人もいるかもしれません。しかし、長期間にわたり何度もアニサキスを体内に入れてしまうと、アニサキスアレルギーになってしまう恐れがあります。
バケツ理論という言葉を聞いたことはありませんか? これは、体内には、アレルギーの原因となる物質(抗原)を入れるバケツが存在していて、その容量を超えるとアレルギー反応が起きてしまうという理論です。
アニサキスを取り込み続けるとアニサキスの抗原を入れるバケツの容量を超えてしまい、結果的にアニサキスに対してアレルギー反応を起こすようになってしまうのです。ただし、バケツの大きさには個人差があり、バケツが大きい人はアニサキスを取り込み続けても一生、アレルギー反応を起こさないこともあります。花粉症などもこれと同じメカニズムです。
いったんアニサキスに対するアレルギー反応を起こす体質になってしまうと、たとえ取り込んだアニサキスが死んでいたとしても、じんましん、重篤な場合は、アナフィラキシーショックなどのアレルギー症状が表れてしまいます。加熱したりしてアニサキス自体は死んでいても、アニサキスが持つアレルギーの原因物質(抗原)は死滅しないためです。こうなってしまうと、お刺身どころか、焼き魚、煮魚などを食べても症状が出てしまうことに……。
防止策は、魚介類を生食するときは日頃から注意を払い、アニサキスを体内に取り込まないようにすることです。
アニサキスから身を守るためには?
アニサキスを体内に取り込まないようにするには以下のような方法があります
◆新鮮な魚を選ぶ
魚が死んでしまうと内臓に寄生していたアニサキスは筋肉内、つまり身の部分に入り込んでしまうため、できるだけ新鮮な魚を食べることはアニサキス予防の鉄則です。魚を丸ごと購入する場合は、販売店で内臓を取り除いてもらい、氷や保冷剤で冷やして持ち帰ると安心感は高まります。
◆魚を切るときに目視で除去する
サクで魚を飼ってきて刺身を作るときや、魚をさばくときは手元にライトを当てて視界を明るくして目視でアニサキスを取り除きましょう。ただし、あちこちに見つかったなどという場合には、生食は避けましょう。
◆内臓を生で食べない
内臓はアニサキスの棲み処です。内臓は絶対に生では食べないようにしましょう。
◆-20℃で24時間以上冷凍する
アニサキスは-20℃で24時間以上冷凍すると死滅することがわかっています。そのため、遠洋で獲れて一度冷凍されたマグロなら安心度は高いと言えます。ただし、近海で獲れたマグロなどは冷凍されていないものもあり、その場合のリスクはほかの魚と変わりません。
家庭用冷凍庫の場合は-20℃という基準を満たさないものもあるため、冷凍してから刺身にする場合には、24時間よりもかなり長い時間、冷凍しなくてはならない場合もあります。
◆加熱処理をする
しっかり火を通して食べることが安心度100%の予防策です。厚生労働省では、「70℃以上もしくは60℃なら1分以上加熱」することを推奨しています。