たくさんの選択肢から選ばせるのは要注意 ただし、「何からがいい?」というように、たくさんの中から選ばせるという聞き方は要注意。選択肢が多すぎると、迷ってしまって逆に選べなくなり、選ぶこと自体をやめてしまうのです。これを、…
画像ギャラリーかつて「偏差値29」から東大理科二類に合格した伝説の東大生がいました。杉山奈津子さんです。その日から十うん年……現在は、小学生から高校生までを指導する学習塾代表として、心理学から導いた勉強法を提唱しています。その杉山さんが、受験生を持つ親に贈る「言ってはいけない言葉」と「子どもの伸ばす言葉」。近著『東大ママの「子どもを伸ばす言葉」事典』から一部を抜粋し、入学試験シーズンを前に集中連載でお届けします。
「勉強しなさい」は、やる気を奪う言葉
「勉強しなさい!」
この発言、親なら誰しも言ったことがあるのではないでしょうか。しかし、人は命令形で何かをやるように言われると、不快な気持ちになり、一気にやる気をなくしてしまうのです。
人間には、生まれつき「心理的リアクタンス」という性質が備わっているからです。「自分の行動は自分で選びたい」という本能のことで、これが、脳に組み込まれているのです。そのため、人から「やりなさい」と命令されることにより、イラッと反発心が生まれ、たとえやる気があったとしても、意欲がしぼんでしまうわけです。
「勉強しなさい」の返事として、「今からしようと思っていたのに、言われたからやる気をなくした」という言葉も、聞き覚えがあるのではないでしょうか。まさしくこれが、心理的リアクタンスによる反応です。
子どもだって、たとえゲームをしていても、「今日中に宿題をやらなくては……」、と頭の中で意識はしているものです。ですから、「勉強しなさい」と命令することは、あえてその意識を潰して、やる気をなくさせるだけです。
子どもに選択肢を示し「やらされている感」をなくす
「命令されてやっている」という反発心を抱えたまま、嫌々勉強しても、集中力は下がるでしょうし、内容もおろそかになることでしょう。
そんなときは、選択肢を出して、子ども自身に選ばせるという手段が有効です。「勉強、漢字からやる? 算数からやる?」と、二択を出してみましょう。
もし子どもが、「漢字からやる」と、自分の意思で選べば、意思を尊重されているという気持ちになるため、心理的リアクタンスは働きません。「人からやらされている」という感覚もないため、強制されてやるよりもスッキリした頭で勉強に向き合えます。同様に、「6時からやる? それとも6時半からやる?」といった、時間を確認する際でも同じテクニックが使えます。
たくさんの選択肢から選ばせるのは要注意
ただし、「何からがいい?」というように、たくさんの中から選ばせるという聞き方は要注意。選択肢が多すぎると、迷ってしまって逆に選べなくなり、選ぶこと自体をやめてしまうのです。これを、心理学用語で「選択のパラドックス」といいます。
コロンビア大学のシーナ・アイエンガー博士による「ジャムの実験」というものがあります。24種類のジャムを並べて売ったときと、6種類のジャムを並べて売ったときを比較してみると、6種類だけ置いたときのほうが、売り上げがよかったのです。
つまり、たくさんの選択肢があると、選ぶこと自体を脳が嫌がり始めるのです。特に、日本を含むアジア圏では、選択肢は少ないほうが選びやすいと感じる人が多いようです。
もし、「どっちも嫌だ」と言われたときは、「じゃあママが選んじゃっていい?」と言うと、高確率で自分で選ぼうとします。やはりこれも、心理的リアクタンスの効果。誰かに自分の行動を決められてしまうくらいならば、自分で決めたいと、急いで判断しようとするのです。
命令とは、自発的なやる気をなくさせるものです。人に命令されてやらされても、「自由を奪われた」という感覚がつきまといます。逆もしかりで、「絶対にこのボタンを押してはいけない」と言われると、なんだか押してみたい気持ちになります。つまり、言われたことと逆のことをしたくなるのです。
マンガと文/杉山奈津子(すぎやまなつこ)
杉山塾代表。1982年、静岡県静岡市に生まれる。静岡雙葉高校3年時の実力模試は「偏差値29」だったが、独学勉強法で1浪後、東京大学理科二類に合格。2006年、東京大学薬学部を卒業後は、作家、イラストレーター、心理カウンセラーとして活動。2020年、静岡市内に「杉山塾」を開き、小学生~高校生の学習塾代表として活動中。近著に『東大ママの「子どもを伸ばす言葉」事典』(講談社ビーシー/講談社)がある。