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シャンパーニュと比べてふくよかで果実味に富んだ味わい

風土と味わいについてもシャンパーニュと比較して語ろう。

その前に品種について。シャンパーニュで使われるのは主にシャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエ。一方、フランチャコルタはつい最近までシャルドネ、ピノ・ネロ、ピノ・ビアンコ(ピノ・ブラン)の3つに限られてきたが、2017年ヴィンテージからエルバマットという在来品種を使うことが許されるようになった(エルバマットについては後述する)。

緯度で言うとフランチャコルタはシャンパーニュよりも4度ほど南に位置する。白亜質の石灰質土壌が優勢であるシャンパーニュに対し、フランチャコルタの土壌は氷河が引きずって来た土砂からなる氷堆積土壌(英語でモレーン、イタリア語でモレニコ)がエリアの大部分を占める。これらの影響により、フランチャコルタでは果実がより熟すため、シャンパーニュと比べてふくよかで果実味に富んだ味わいになる。また同じ理由で、ドザージュ(あるいはドザッジオ。澱抜きの後に行われる糖分添加)が少量、または無し(量を補うため、白ワインのみを足す)で済むため、より自然な風味となる。ノン・ドザージュは近年、スパークリングのスタイルとして流行の兆しがあるが、フランチャコルタのそれには、ちゃんと果実味が残り、いかめしい感じにならない。

イゼオ湖。この湖水がフランチャコルタの気候をマイルドにする

シャンパーニュvsフランチャコルタ、味わいの優劣をつけるのは野暮なことだ。互いに違う味わい、価値、居場所がある。両方の良さを知って、両方を愛すればいい。フランチャコルタにとって有利なのは、同格のワインであれば、シャンパーニュよりも2、3割安い価格で手に入ることだろう。

“変わり種”のフランチャコルタを紹介

おすすめしたい銘柄は幾つもあるが、今回はちょっと“変わり種”のフランチャコルタを紹介することにしよう。

「カステッロ・ボノミ」は、フランチャコルタの南に屏風のように隆起するオルファノ山(452m)の南斜面に位置する。フランチャコルタでは稀な、壮麗なシャトーを有することでも知られる。創立は1985年。2008年にヴェネト州のプロセッコの生産者でもあるパラディン家が買収した。17年にはイタリアソムリエ協会(AIS)からロンバルディア州のベストワイナリーに選ばれた。19年にはオーガニック認証を取得(フランチャコルタは生産者の約7割がオーガニックの認証を取得しているその道の先進エリアだ)。

カステッロ・ボノミのシャトーとブドウ畑

フランチャコルタは北のイゼオ湖岸を口とした馬蹄形に広がっているのだが、カステッロ・ボノミのあるモンテ・オルフェノ地区は馬蹄の外側ということになり、先に述べた氷河や湖面を渡って吹いてくるアルト・アルプスの涼風も“屏風”によって遮られるため、馬蹄の内側とはテロワールが異なり、そこから生まれるワインも良い意味で「フランチャコルタらしからぬ特徴」を持つと言われる。

具体的に言うと、土壌は氷堆積土壌ではなく石灰質土壌(シャンパーニュと同じだ)、オルファノ山の南に広がるポー川流域の暖かい空気の影響を受ける。シャンパーニュより温暖なフランチャコルタの中で、さらに暖かいとなると、ワインに締まりがなかったり、香りがトロピカルフルーツに偏ってしまったりしそうだが、土壌との絶妙なコンビネーションのお陰で、この造り手のフランチャコルタは、よく引き締まり、スケール感があり、熟成にも十分に堪える。

3アイテムを試飲した結果は

3つのアイテムを試飲してみよう。

左から、「フランチャコルタ ブリュット クリュ・ペルデュ ミレジマート2011」、「フランチャコルタ ブリュット キュヴェ22」、「フランチャコルタ ドザージュ・ゼロ ミレジマート2012」

スタンダードの「フランチャコルタ ブリュット キュヴェ22」から。シャルドネ100%。標高、地勢、傾斜の異なる22の区画のブドウを別々に収穫・醸造し、各所の個性を損なわぬようにブレンド。澱引き前の熟成期間は30カ月。レモンオイル、青リンゴ、アカシアの花を主体とした涼しげな香り。好もしい酵母香。ソフトな泡。口の中では十分な酸が感じられ、フレッシュな印象が残る。

「フランチャコルタ ブリュット クリュ・ペルデュ ミレジマート2011」。パラディン家がオーナーになってからずっと支配人兼醸造責任者を務めるルイジ・ベルシーニ氏が、敷地内の荒廃地に古いピノ・ネロの木を発見。その中から選別した木を植樹して育てた。Perdu(失われた)の名はこのワインの30%を占めるピノ・ネロに因む。収穫したブドウは圧搾することなく、フリーランだけを使用。澱引き前の熟成期間は60カ月。熟れた洋梨やリンゴの蜜の部分の香りに密な酵母香が交じる。口の中では温州みかんのような優しい風味がある。ピノ・ネロが加わることで、酸が真っ直ぐな背骨を成し、熟成がスケール感を生み出している。

「フランチャコルタ ドザージュ・ゼロ ミレジマート2012」。シャルドネ50%とピノ・ネロ50%。澱引き前の熟成期間は、なんと6年間。華やかな酵母香、タルトタタンを思わせる濃密な甘い香りと焼き栗のような香ばしいトーン。どの香りも控えめで上品に溶け合っている。口の中では干したアプリコットやリンゴの風味。ドライでありながら、好もしい旨味が舌を撫でてうっとりする。

“変わり種”だと前置きしたが、麗しい酸と熟成のポテンシャル、堂々たるスケール感からして、シャンパーニュの一級品と正面から渡り合えるのは、この造り手のフランチャコルタかもしれない。くどいようだが、同格のシャンパーニュと比べると、何割か安いのは大きな魅力である。

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気候変動による影響……エルバマットの貢献に期待...
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浮田泰幸
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