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スペイン、ラ・マンチャでワイン産業におけるサステナビリティについて取材しないかとの誘いが来た時、最初は正直言って気乗りがしなかった。普段は家族経営の、クラフト的で農業的なワイン生産者に関心があり、そういった造り手を取材し、記事にすることが多い。それに対して、ラ・マンチャは世界有数の「工業的なワイン」の産地である。しかし、世の中の人々が実際に飲んでいるワインの9割以上は、まさにラ・マンチャで多く見られるような、大きな資本のもと、効率的に生み出されるインダストリアル・ワインなのだ。そういったワインの現場をつぶさに見てレポートするのもワイン・ジャーナリストたる者の使命と言えまいか。そう思い直し、誘いに応じることにした。

なお、ここで言う「サステナビリティ」には、温室効果ガス削減、有機栽培の実践など環境や人体への配慮だけでなく、生産地の文化・伝統、ワインの価値を守ること、産業を維持して地域の経済・雇用を守ることによって社会を持続させるという意味合いが含まれていることを予めお断りしておく。

年間生産量は6300万本、世界90カ国に輸出

スペイン中部、首都マドリードの南に広がるラ・マンチャ地方(行政上の区分けではカスティーリャ=ラ・マンチャ州)は、15万4000haを超えるブドウ畑を擁する世界有数の巨大ワイン産地である。スペインはワインの生産量でイタリア、フランスに次ぐ世界第3位のワイン生産大国だが、そのうちの約3割がラ・マンチャで造られている。2021年時点のデータによると、DOラ・マンチャ(原産地呼称制度で認定されているエリア)の年間生産量はボトルにして6300万本。世界90カ国に輸出されており、日本市場は輸出先の第3位で、出荷されたボトルの数は143万3707本である。ボトル詰めされたワイン以外に、ブレンド用に使われるバルクワインや蒸留酒原料のブドウの生産も行われている。

ツーリストで賑わう古都トレドは、カスティーリャ=ラ・マンチャ州の州都。城塞都市のすぐ外側にはブドウ畑が

ラ・マンチャのブドウ畑はメセタと呼ばれるイベリア半島独特のフラットな高原に広がる。DO域内の平均標高は738m。海から遠く離れていることもあり、気候は寒暖差の大きい大陸性気候で、過去30年の記録では、最高気温は47.5℃、最低気温は-20℃となっている。『ドン・キホーテ』の作者セルバンテスはこの地方の気候を「9カ月の冬(インビエルノ)と3カ月の地獄(インフィエルノ)でできている」と記したという。年間降水量は300〜400mm程度と、極端に乾燥している。

DOラ・マンチャ委員会のオフィスに飾られた収穫の様子がわかる古い写真。撮影されたのは1960年代か

土壌は「アルシーリャ・ロハ」と呼ばれる排水性の高い赤い砂礫と粘土がほとんどで、痩せた土壌でありながらワインに好適とされる石灰質に富む。

独特の赤い土壌「アルシーリャ・ロハ」

大きな寒暖差はブドウに十分な風味とクッキリとした酸を与える。極度の乾燥は、ブドウ木がカビ系の病気にかかるリスクを減じてくれるため、オーガニック栽培が容易になる利点がある。

ワイン産地としてのラ・マンチャの最大の特徴はコーポラティーバ(協同組合)が多いことだ。域内に約250軒あるワイナリーのうち約半分が協同組合によって経営されている。その背景について、DOラ・マンチャ委員会のルイス・マルチネスさんは「多くのコーポラティーバは1950年代に誕生しています。フランコ体制下では、ワインを含む農産物が外貨獲得の主な手段であったため、生産の合理化、安定化を図り、価格をコントロールするべく協同組合を支援する政策がとられたのです」と説明する。

風車の並ぶ丘の前にブドウ畑が広がるラ・マンチャらしい風景
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日本でよく売れている「ボデガス・ラトゥエ」の白ワイン...
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浮田泰幸
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