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2022年の晩秋から暮れにかけて、ボルドーワイン委員会とメドックワイン委員会のセミナーがオンラインと都内の会場とで相次いで開かれた。前者は、ボルドー全体のブドウ栽培者、ワイン生産者、ワイン商を代表する組織、後者はボルドーの中でも「左岸」と呼ばれ、「5大シャトー」始め、銘醸シャトーの多くが立地、操業しているメドック地方の生産者らを代表する組織である。

“5大シャトー”の一つ「シャトー・マルゴー」

質量共に世界一、最先端の場所

一級品とされるボルドーワインの多くが何年もの熟成を経てからでないと本領を発揮しないこと、文字通り「お城然」とした建物を持つシャトー(ボルドーでの意味はブドウ畑を所有し、栽培、醸造、熟成からボトル詰めまで一貫して行う生産者のこと)が多いことから、「ボルドー」と聞くと、重厚で古めかしいイメージが浮かぶ人が多いかもしれない。が、クオリティワインの産地としては質量共に世界一と言えるボルドーは、潤沢な資金のもと、俊英が集い、栽培・醸造の最新技術が日々生まれ、研磨され、世界に発信されている「最先端の場所」である。

「シャトー・ペデスクロー」のモダンな外観は新生ボルドーの象徴。シャルル・ド・ゴール空港の内装を手がけたジャン・ミッシェル・ビルモット氏によるデザイン

11月2日に行われた「メドックワインマスタークラス」の中で「シャトー・ドーザック」(マルゴー地区、メドック格付け5級)が導入した新技術が紹介された。木製の発酵タンクの側面に透明の窓を設け、発酵中のマスト(醪)の状態が見えるようにしたものだ。目的は赤ワインが抽出過多になるのを未然に防ぐこと。赤ワインの醸造においては、果汁だけでなく、果皮や種子から色素や香味、渋みなどの成分を抽出するのだが、抽出の度合いによって出来上がるワインが違ってくる。食のトレンドがどんどんライト化していくなか、ワイン界においても10年くらい前から飲み手と造り手の双方が抽出過多を嫌う傾向にあり、ボルドーワインだけが濃厚ではいられないのだ。

「シャトー・ドーザック」の窓が付いた発酵タンクが並ぶシェ(醸造所)

「シャトー・ドーザック」によると、この窓付き発酵タンクは、コニャックの大手樽製造会社、セガン・モロー社と共同で開発したもの。またシャトーでは、18年からこの発酵槽とR’Pulseというシステムを導入しているという。このシステムは、掃除機のような形状の機械で果帽(醪の中の固形分が浮いて、発酵タンクの上部に固まったもの)の下から酸素を注入することで、果帽が固まったり、乾燥したりするのを防ぎ、ソフトに短時間で成分抽出を終わらせるもの。

マストの状態がよく見えるので適切な対応ができる

従来は、ピジャージュ(果帽の上から櫂状の道具でつっつく)、ルモンタージュ(タンクの下から液体を抜き取り、ポンプで果帽の上からかける)などの方法が取られてきた工程だが、時間も労力もかかるし、マストに衝撃が加わることで、ワインに余計なダメージを与えてしまうリスクが高かった。R’Pulseを使えば、マストは強い衝撃を受けることなく抽出・発酵するので、ワインはピュアな果実味が際立つものになるということらしい。おまけに醸造スタッフは長時間の重労働から解放され、機器を稼働・洗浄するのに使う電力や水の消費を抑制することができるというからいいことずくめだ。販売元のサイトによると、5675ユーロ(約80万円)するこのシステムをすでにボルドーでは100軒の醸造所が導入している。「シャトー・ドーザック」は開発の段階からこのシステムに関わってきたそうだ。

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2023年から「メドック白」が格付け...
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浮田泰幸
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