ボルドーワインへの既成概念を改める
オンラインセミナーの中で、両シャトーのオーナー兼ワインメーカーにアンフォラ導入の狙いについて質問した。
「シャトー・シャンション」のパトリック・エレズエさんは、「2016年にアンフォラを導入しました。美しいタンニンを抽出したかったのと、樽で熟成をかけることで加わる独特の風味を省きたかったのです。アンフォラで醸すと赤果実のピュアな風味が表現できます。またボトリング直後から飲めるワインになると思います。現在では、100%アンフォラ醸造の『テア』というアイテムも出しています」とのこと。
「シャトー・ルストーヌフ」のブリューノ・スゴンさんは、「うちではイタリア製の、卵が逆さになった形状をした特別なアンフォラを使っています。発酵タンクとしてではなく、熟成用のみに使います。狙いは果実味としなやかなタンニンを表すこと。樽熟成のキュヴェと混ぜることで、エアリーで飲みやすいワインになると思います」とのことだった。
わずか2人だけのコメントからも、我々飲み手の側がボルドーワインに対する既成概念を更新しなくてはならないことがわかる。万物は日々移ろう。気候変動や嗜好の変化、食の安全や環境への意識向上などを前に、ワイン造りも臨機応変にトランスフォームすることが求められる。ボルドーでさえ、例外ではないのだ。
ワインの海は深く広い‥‥。
Photos by Yasuyuki Ukita, Chateau Dauzac, Chateau de Chainchon
浮田泰幸
うきた・やすゆき。ワイン・ジャーナリスト/ライター。広く国内外を取材し、雑誌・新聞・ウェブサイト等に寄稿。これまでに訪問したワイナリーは600軒以上に及ぶ。世界のワイン産地の魅力を多角的に紹介するトーク・イベント「wine&trip」を主催。著書に『憧れのボルドーへ』(AERA Mook)等がある。