×

気になるキーワードを入力してください

SNSで最新情報をチェック

2023年から「メドック白」が格付け

「メドックワインマスタークラス」の中で、もう一つ興味を引かれるニュースがあった。2023年から「AOCメドック・ブラン」がワイン法で認められるというものだ。ラフィット、ムートン、ラトゥール、マルゴーなど、ワインを愛好する者なら誰もが名前を聞いたことのある有名シャトーが立ち並ぶメドックだが、格付けがされているのは赤ワインだけ。ボルドーの名声は赤ワインが築いたと言って差し支えない。しかし、実際にはメドックの多くのシャトーが白ワインも造っていて、そのクオリティは赤に負けず劣らず高い(ブドウ品種は、ソーヴィニヨン・ブラン、セミヨン、ミュスカデルなど)。銘醸シャトーを取材で訪ねた際、食事の席でそのシャトーが特別な客のためだけに造っている白ワインを供されるのは、ワイン・ジャーナリストにとって密かな愉悦である。

マルゴー村の名門「シャトー・パルメ」の白ワイン

「メドック白」が格付けされて日の目を見る動きの背後に何があるのかは詳らかでないが、考えられるのは、世界的に白ワインの人気が高まっていることと、気候変動の影響が予測し難く、一つでもリスクを分散するものを持っていたいという経営戦力上の理由だ。また経営が盤石でないシャトーにとっては、熟成期間が短くて済む白ワインの価値が高まることはキャッシュフローを安定化させるのにもってこいの朗報と言えるだろう。

近年流行りの卵型の向こうを張って登場したユニークな形状のコンクリートタンク(「シャトー・フェリエール」)

アンフォラを使ったワイン造り

一方、12月14日にオンラインで行われたボルドーワイン委員会のメディア・ワイン業界関係者向けセミナーのテーマは「ボルドーワインのフルーティアロマの最新情報」というものだったが、ここで僕の興味を引いたのは、「ジアセチルの働きでジャム的な香りが増強される」といった、科学的素養がないと理解不能な話題ではなく、試飲用サンプルとして送られてきた2本のワインの造り手の醸造スタイルのほうだった。1つはボルドー右岸、サンテミリオンに隣接するカスティヨン・コート・ド・ボルドーの「シャトー・ド・シャンション」、もう1つはメドック地方の北の端、ジロンド川が大西洋に注ぐ河口のすぐ近くにある「シャトー・ルストーヌフ」(ワインはいずれも赤だった)。

2つのシャトーはいずれも自然な造りで瑞々しいワインを目指していて、前者はオーガニック認証も取得している。興味深いのは両者共にアンフォラ(素焼きの甕)による発酵もしくは熟成を醸造工程に加えていることだ。アンフォラを使ったワイン造りは世界的に起こっている「バック・トゥ・オリジン」の一つで、起源をたどると黒海周辺のワイン発祥地にたどり着くのだが、ミレニアム前後にイタリア北部で新たに火がつき、ナチュラルワインの生産者を中心に世界に拡散、今では各地でこの手法が取り入れられている。アンフォラのメリットは、ステンレスタンクにはない微酸化が期待できること(ワインが丸みを帯びる)と、木製の樽を使うことによる樽香を避けることでブドウ本来の風味をより際立たせることができること(アンフォラのタイプによっては土っぽい風味がつくことがある)。

僕の知る限り、10年前にボルドーでアンフォラを使っている生産者はほとんどなかった。冒頭で、「最先端の場所」と書いたが、ボルドーはある部分でひどく保守的なところがあり、例えば、有機栽培やワインツーリズムの導入という点では、他のワイン産地の後塵を拝してきたという事実もある。アンフォラの使用にもボルドーは慎重であるように見えたのだが、どうやら、ここ数年の間に風向きが変わっていたようだ。

次のページ
ボルドーワインへの既成概念を改める...
icon-next-galary
icon-prev 1 2 3icon-next
関連記事
あなたにおすすめ

関連キーワード

この記事のライター

浮田泰幸
浮田泰幸

浮田泰幸

最新刊

全店実食調査でお届けするグルメ情報誌「おとなの週末」。4月15日発売の5月号では、銀座の奥にあり、銀…