長ねぎの入った蕎麦やうどんを「南蛮」と言う。そのツユがカレー味のものであれば「カレー南蛮」になるのです。今回お届けするのは、蕎麦の王道から独創的なものまで多彩な顔ぶれ。奥深きカレー南蛮をお楽しみください。
『小川家(おがわや)』 @飯田橋
蕎麦ツユ香るカレーに二八の蕎麦が後を引く
閑静な後楽の地に明治初期から続く店。ご主人は現在が五代目にあたる。ゆったりした店構えの中でいただく蕎麦は、20年ほど前から手打ちだといい、十割もあるが、基本は二八。きれいな細切りでのど越しがいい。で、カレー南蛮がまたいいのだ。きれいにサバダシが効いたかけ汁を火にかけて、カレー粉と片栗粉をブレンドした自前の粉を溶き入れる。具には玉ねぎと豚バラがたっぷり。
カレー南蛮そば 1100円
熱々トロトロのいかにも蕎麦屋のカレーに細い麺がよく絡み、するするとのどに吸い込まれていく。するとその後から蕎麦ツユの風味とカレーのスパイシーさが追いかけるように上がってくる。豚バラの旨みがまたよし。昔ながらなんだけどブレのない、品のある味わい。何とも後を引く旨さだ。
[住所]東京都文京区後楽2-3-20
[電話]03-3811-0074
[営業時間]11時〜15時(14時半LO)、17時半〜21時(20時半LO)
[休日]土・日・祝
[交通]地下鉄有楽町線ほか飯田橋駅B1出口から徒歩6分
『蒼凛(そうりん)』 @笹塚
“かけ”に寄り添うやさしきスパイスの香り
カレー南蛮と聞けば、とろみのある汁をたっぷり絡めながら麺が持ち上がる、そんな姿を思い浮かべるだろう。しかし、こちらで出すのはあくまで“かけ”の派生型。まずは器の端の方からそっと引き出し啜ってみれば、カツオ節や宗田節の香りの中から九一で打った蕎麦の甘みが広がるまさしく端正な“かけ”だ。
蒼凛特製カレー南蛮 970円
満を持して中央部分に箸を入れれば、ガラムマサラやトマトで炒めた合挽き肉が絡まって、穏やかなスパイス感がふわりと広がっていく。そんなと香りの濃淡が、かわるがわるにやってくる楽しき仕掛けに最後まで翻弄されてしまう。加えて日本酒や旬を感じるつまみの揃えも上々とくれば、現在は昼だけの営業とは言え、蕎麦前からスタートせずにはいられなくなるだろう。
[住所]東京都渋谷区笹塚2-30-9
[電話]03-3373-8374
[営業時間]11時半〜15時(14時半LO)
[休日]月
[交通]京王線ほか笹塚駅北口から徒歩6分
『新宿花園町 なかむら庵』 @新宿御苑前
濃厚リッチなツユがまさに冬にぴったり
天ぷらと肴と蕎麦。それがこの店の3本柱だ。まず天ぷらは通常のそれとは異なり、魚介や野菜などの具材を刻んで揚げたかき揚げタイプ。楽しき食感も相まって酒のアテにも優秀だ。さらに肴もセンス良く、寒さ厳しい今時期ならば小鍋仕立ての「坦々豆富」なんてメニューも気が利いている。そうして〆を飾るのが蕎麦なのである。
豚とキノコのクリーミーカレー蕎麦 1200円
江戸前伝統の冷蕎麦や種物もある中で、目を引くのが創作蕎麦。カレー蕎麦もそんな一杯で、ガラムマサラにチリやクローブを調合したルウをダシとクリームで溶く。リッチなコクと力強いカツオ節の風味がいい塩梅で両立し、後からやってくるスパイスの香りも心地良い。コシのある蕎麦にたっぷり絡む濃厚な汁が冷えた身体を芯から温めてくれる。
[住所]東京都新宿区新宿1-32-1 skビル1階
[電話]03-6380-5255
[営業時間]11時〜16時、17時〜24時 ※木・金〜翌5時、土12時〜翌5時、日12時〜24時
[休日]月
[交通]地下鉄丸ノ内線新宿御苑前駅2番出口から徒歩3分
『手打ちそば 長寿庵』 @新小岩
チーズ×スパイスがつるっと蕎麦に絡み合う
知らなければ通り過ぎてしまうような小さな町の蕎麦屋にも名物カレー南蛮は潜んでいた!まず基本となるのはカツオや宗田、サバ節からとったダシ。そこへ醤油の風味立つ、ほんのり甘めのカエシを合わせ、カレー粉と片栗粉を加えて完成だ。こう書くと普通のそれと変わらぬような気もするけれど、抜きん出るのがスパイス使いの妙。
チーズカレー南ばん 1210円
クミン、コリアンダー、その他モロモロの12種類のスパイスを独自にブレンドして、どの香りも飛び抜けることなく正円を描くようなバランスでツユや具材とマッチ。挽きぐるみ粉に海藻パウダーを少量足して、なめらかな麺肌に打った蕎麦を手繰れば炙ったチーズが伸びやかに絡みつき、思わず笑顔。寒い時期限定でお目見えするシアワセの味だ。
[住所]東京都葛飾区新小岩1-36-1
[電話]03-3652-4769
[営業時間]11時〜15時(14時半LO)、17時〜20時(19時半LO)
[休日]月・火
[交通]JR総武線新小岩駅南口から徒歩6分
撮影/小島昇(小川家)、西崎進也(蒼凛、なかむら庵)、小澤晶子(長寿庵)、 取材/池田一郎(小川家)、菜々山いく子(蒼凛、なかむら庵、長寿庵)
※2023年3月号発売時点の情報です。
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