本誌『おとなの週末』の連載『往復書簡』でもおなじみ、タベアルキスト・マッキー牧元さんの「立ち食いそば」連載。第3回は青森・八戸の駅そば。またまた新しい出合いがあったようです。
画像ギャラリー地方で立ち食い蕎麦に入る時は、土地土地の郷土色があるものを頼むと決めている。
先日も、八戸駅のコンコースにある、『そば処はやて』の前に立って、選んでいた。
「鶏天そば」、珍しい。
きつね、たぬき、生卵が乗った、「三食そば」は、名前が珍しい。
だがここで食べるなら、これだろう。
「三陸磯のりそば」(580円)である。
黒々とした磯海苔が、丼の半分近くを占めて乗っている写真にそそられる。今日はこれにめかぶ(180円)を奢ってみた。追い海藻である。
大量のマグネシウム、カルシウム、食物繊維摂取で、普段の荒れた食生活を改善しようとする計画である(単に海藻が食べたかっただけだが)。
計760円というゼータクになった。
中ではおばちゃん3人が、テキパキと働いている。いんや青森だから、カッチャが働く立ち食い蕎麦屋だな。
「はい、磯海苔そばにめかぶぅ」。
カッチャの元気な声が、店内に響く。
受け取ってみると、そばの上には磯海苔もめかぶも、たっぷりと乗っているではないか。
うれしい。
さらには、ホタテの稚貝まで、3個乗っているではないか。
うれしい。
なにか得した気分である。私の知る限り、ホタテを参画させた立ち食いそばというのは、聞いたことがない。いや普通の町そばでも、希少だろう。
まずツユをひと口飲むと、かなり熱い。
青森の気候を考慮してなのだろうか、すっとは飲めないほどに熱く。ひと口で体が温まる。
そして主役の磯海苔がいい。
香り豊かで、磯香が鼻に抜け、海苔の旨みがツユに溶け込んで、グッと味が深くなる。そばに絡めて、ずずっと手繰れば、海苔の香りが鼻に抜けて、粋な花巻そばの風情が漂う。
一方のめかぶは、味や香りというよりぬめりである。
ぬめっとした食感が、そばの一本一本と絡んだ、山かけ的情趣が生まれる。そんな磯海苔とめかぶの演出を感じながら、ホタテをかじる。小さいながらも甘みがあり、そばの句読点として、実によろしい。
最後のツユは、海苔の旨みとめかぶの粘りが溶け込んで、一段と味わいが膨らんでいた。
だからつい、最後の一滴まで飲み干してしまった。
取材・撮影/マッキー牧元
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