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ゴルフ・エッセイストの夏坂健さんは、ゴルフの達人であるだけではなく食通としても知られ、1983年に、古今東西の偉人たちの食に関するエピソードを集めた『美食・大食家びっくり事典』を著している。この本のカバー折り返しには、美食家で料理人としても知られた俳優・故金子信雄さんが、フランス王妃マリー・アントワネットの有名な言葉「パンがなければお菓子をお食べ」を引いて、「パンが不味ければこの本をお読み」と書いている。ローマの皇帝は、フランスの太陽王は、ベートーベンは、トルストイは、ピカソは、チャーチルは、いったい何をどう食べていたのか? 面白さ満点の歴史グルメ・エッセイが40年ぶりにWEB連載として復活しました。博覧強記の水先案何人の手引きで、先人たちの食への情熱ぶりを綴った面白エピソード集をご堪能ください。第5回は、読むだけで胸焼けしそうな世界一の大食漢たちの食いっぷりについて。

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第1章 絶命するまで啖(くら)いつづけた男たち

肥満が何だ、栄養がどうした。

美味なるものを死ぬほど食べる。

これが生きることの悦楽の極致。

古今東西の食の殉教者たちの

垂涎のものがたり。

(5)世界最大の胃袋の持ち主はロシア人

当時のロシアではフランス文化がもてはやされていた。当時料理もフランス仕込みだったが、そのボリュームだけはロシア流が守られた。

♣涙の塩味でパンを食した人間でなければ人生の味はわからない――ゲーテ―― 

食の道の研究家によっては、世界一の胃袋の主はロシア人だという。彼らはツマ先までスープを入れることができるそうな。大食のピンのほうでは皇帝アレクサンドル2世がとくに有名。

皇帝の人物の大きさを物語るエピソードがある。未開の後進国から国王がきて、2人はテーブルについていた。その国王はテーブルマナーなぞ意に介さず、いや、てんで知らなかった。

食後に指を洗うためのフィンガーボールが出てきた。

すると後進国の王様はそれを済ました顔でグイッと飲んでしまった。給仕がクスッと笑いかけると、皇帝はそちらをぐっと睨みつけてから、同じように自分の前のフィンガーボールに手をかけて一気に飲み干した。いい話である。

皇帝は人物も大きかったが胃袋も特大だった。ある夕食。皇帝1人で召し上がったメニューが残っている。

  キャビア スブク(バケツ)1杯

  ワイン16本

  野うさぎ 2羽

  羊の丸焼き 1頭

  野禽(野鳥)の挽肉シチュー 大鍋1杯

  衣つき去勢鶏 2羽

そしてデザートにリンゴの甘煮を5個とウオッカを3本。

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凄まじい食べっぷりを芸にした男...
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