午前6時、21人前のフルコースを平らげたあとに……!?
午前4時ごろになって、介添人はテーブルにつっ伏して寝込んでしまった。そこでモンスレーが代役を買って出た。戦士たちはベルトをゆるめ、シャツ1枚の汗だく姿で黙々と食べ続けた。手洗いに行くのも一緒なら、ワインのコルクを抜くのも同時、料理を片づけるペースもぴったり一致していた。
午前6時ごろ、カーテンのすきまから洩れる朝日のまぶしさで介添人がとび起きたとき、徹夜で食べ続けた2人は、ちょうど7回目のデザートを平らげているところだった。12時間のあいだに3人前の食事を7回、つまり21人前のフル・コースを食べたわけだ。その上、一人17本のワインと4種類のリキュールを飲み干していた。
しきりに目をこすっている介添人に、2人が異口同音命じた言葉は、モンスレーを驚嘆させるに十分だった。彼らはこういった。
「お目覚めかね? それでは朝食にしてくれたまえ」
介添人やモンスレーまでご相伴にあずかった朝食は、牡蠣の串焼きにソーテルヌの白、仔羊のグリルにシャンベルタン酒、山盛りのロシア・サラダ、舌平目のチーズ焼き、クロワッサンにイチゴのシュークリームというコースだった。美食、大食のモンスレーが、
「私は1人前で満腹した」
という分量を、彼らは規定通り3人前平らげた。
調理場では夜を徹して10人以上のコックが休みなく働き続けていたが、朝日が昇るころになると次々に倒れてしまい。あわててよそのレストランに応援をたのんで午前9時ごろには20人からの助っ人を揃えることができた。
午前11時を回ったころから、誰の目にも優劣がはっきりと見えはじめてきた。一方の顔面が蒼白に変わって、しきりにアブラ汗をぬぐいはじめたのだ。大儀そうに動かす口は鉛を頰張ったのかと思うほど重く緩慢で、ようやく吞み下したあと、小山のように盛り上がった腹部をさすって深い吐息をもらすのだった。
11回目のフル・コースが終わるやいなや、すぐに12回目の料理が運ばれてきた。テーブルの周囲は十重、二十重の人垣。そのあいだを縫って、まず3皿のスープが並べられた。それはどうやら飲み干したものの、次の合鴨のオレンジ・ソース煮の切り身を口に入れたとき、顔面蒼白氏の動きがピタッと止まった。あたりはシーンとなった。
彼の口の端から、ゆっくりとオレンジ・ソースがしたたり落ちて、それは血痕のように汗まみれのシャツに広がっていった。不意に首がぐらっとゆれて白眼をむくと、そのまま彼はドウと椅子ごと横に倒れてしまった。
「勝負あったッ、これまで!」
介添人は叫びながら倒れた男に駆け寄り、しっかりフォークを握ったままの男の手首の脈をさぐった。33人前の料理を18時間で食べ抜いた果ての消化不良なのか、あるいは不眠不休の鯨飲飽食による心臓マヒか、男はすでにコト切れていた。
「巨岩の砕け落ちるが如く、大氷塊の溶け崩れるが如く、これぞまさしく雄々しき戦死であった」
モンスレーは死者をこう讃美している。
勝者のほうはといえば、これまた気息エンエン、蛙のようにふくれあがった腹部をさすりながらしきりに呻吟していた。
それにしてもこの決闘は残酷だ。ピストルの1発、剣の一突きでケリをつけたほうがはるかに人道的といえるだろう。