ロックフェラーの皮肉
ブリア・サヴァランは、人生で唯一退屈しない場所は食卓だといっている。どんな食事の時間を過ごしているかで、あなたは自分の幸福度を計ることができるはずだ。
ところで、大金持ちが豪華な食事をとり、貧乏人は粗末なものを食べていると思い込んでいる人が多いが、それは間違いである。
先代のロックフェラーがある時、ニューヨークのレストランにやってきてポーク・チョップを注文した。世界一といわれる大富豪にしては信じられない注文だった。支配人もにわかに信じ難く、先週、ご子息がお見えになって、当店の極上フィレ・ステーキにいたくご満足されましたが、と水を向けてみた。
「それは結構。しかし私には金持ちの父親がいないもんでね」と大富豪はいった。
(本文は、昭和58年4月12日刊『美食・大食家びっくり事典』からの抜粋です)
夏坂健
1934年、横浜市生まれ。2000年1月19日逝去。共同通信記者、月刊ペン編集長を経て、作家活動に入る。食、ゴルフのエッセイ、ノンフィクション、翻訳に多くの名著を残した。その百科事典的ウンチクの広さと深さは通信社の特派員時代に培われたもの。著書に、『ゴルファーを笑え!』『地球ゴルフ倶楽部』『ゴルフを以って人を観ん』『ゴルフの神様』『ゴルフの処方箋』『美食・大食家びっくり事典』など多数。