少し前の話になるが、2022年秋に訪れたポルトガルワイン試飲会(@八芳園・東京)の話から始めよう。今までほぼ未知レベルだったマデイラワインの魅力にいきなり出合ってしまったのがきっかけだったから。「マデイラワイン? 当然知ってるよ」って方はさておき、「ん、何? 何?」と思った方はぜひ。その魅力、知らなきゃ、というより、ハマらなきゃ損、なので!
画像ギャラリーそもそもマデイラ(ワイン)とは
そもそもマデイラ(ワイン)って何よ? という人も多いと思うので、まずは簡単にその話から。マデイラは、シェリー、ポートと合わせて“世界三大酒精強化ワイン”と言われている。この中で言うと、一番ポピュラーなのはシェリーかな。
酒精強化ーーいきなり聞き馴染みがなくて恐縮だがーーとは、ワインづくりの途中でアルコールを添加して度数を上げること(ちなみにこのアルコールは、ワインを蒸留したお酒、つまりブランデーが多い)。で、そのタイプのワインが酒精強化ワイン(英語ではフォーティファイド・ワイン Fortified Wine)と呼ばれている。
なんでわざわざそんなことするのよ、という当然の疑問にはおいおいお答えしたいが、ひと言だけ言うと、この3つともヨーロッパ各国が世界に進出した15世紀以降の大航海時代、船に積まれ世界に広まっていったワインだということ。
航海の途中には赤道も越え、長い船旅はワインにとって過酷なものだった。それに耐えることができたのは、リッチで、アルコール度が高く、丈夫なワイン。前記の3つだったということだ。それらが当時すでに酒精強化されていたのか、あるいは自然に度数が高くなったワインだったのかは定かでないらしいが……。
さてその中でマデイラはというと、大西洋に浮かぶボルトガル領のマデイラ島でつくられるワインだ。位置で言えば、アフリカ大陸のモロッコから西へ約650㎞の太平洋上。大航海時代には、水やワイン、食糧を補充する航海の中継地点として発展した。
現在は、山と緑に囲まれた美しさから「大西洋の真珠」と呼ばれるリゾート地。ちなみにクリロナ(CR7)こと、サッカーのクリスティアーノ・ロナウドはここの出身だ。
繊細でみずみずしい、なのにお手軽って……
少し前置きが長くなったが、ポルトガルワイン試飲会である。ポルトガル大使館やポルトガル投資貿易振興庁などの後援の下、5回目の開催。全19社、300種類を超えるポルトガルワインが集まっている。昨今、ポルトガルワイン自体が大きな注目を浴びつつあるのがわかるってもんだ。
そしてマデイラは、先に書いたようにポルトガル領マデイラ島のワイン。もちろんポルトガルワインの一角を占めている。
ところで、ワインは結構好きな方だと思うのだけど、今までなぜにマデイラをちゃんと飲んだ記憶がないのだろう。ひとつには、おそらく同様の人も多い気がするんだけど、料理酒のイメージがあるからかな。曰く、肉料理のマデイラ風味、あるいはマデイラソース……。確かにマデイラソースは旨い。が、本来マデイラはワインなので飲むためにある。その実力を知らねば……。
というわけで、いよいよマデイラのブースへ。薦められるままに、まずはヴィニョス・バーベイト社(以下バーベイト)の「セルシアル10年」をひと口飲んでみる。あ〜、思ったよりもずっとみずみずしい。かすかに甘みを感じさせながらもドライできれいな酸味があるなあ……。
ドライからスイートまで、品種違いで飲み比べ
マデイラというと、勝手に赤ワイン品種を使っていて、少し重めで甘口なのかな(チョコレートフレーバーとか)なんてイメージがどこかにあったんだけど全然違う(それは思い込みだ)。
確かにティンタ・ネグラという黒ブドウ品種があって、マデイラに使われる栽培品種としては一番多いのだけど、それ以外に4種類ほど昔から使われてきた白ブドウ品種がある。で、それぞれのブドウに持ち味があるのだ。
そしてバーベイトはというと、1946年設立のワインメーカーで、「少量でも品質の高いマデイラワイン造り」を理念としている。聞けば、同社の特徴はシャープな酸味でもあるとか。
試飲に話を戻そう。最初に飲んだセルシアル、これはブドウ品種の名前。そしてブースには同じく10年で、ヴェルデーリョ、ブアル、マルヴァジアといずれも白品種の品種違いのマデイラが並び、飲み比べることができた。
それぞれの品種の特徴を生かしながら、順にセルシアル・辛口、ヴェルデーリョ・中辛口、ブアル・中甘口、マルヴァジア・甘口。ハーブやスパイス、ハチミツの香り。少しずつリッチに甘さを増すのだけど、共通しているのはきれいな酸が保たれていること。だからべったりするようなことはない。ていうか、エレガント! いいもの知ってしまったじゃん。
ちなみにマデイラワインは、実はすでに酸化熟成されたワインなので、一度抜栓しても味わいが変化せず、安心して飲めるという利点もある。それは独自の製法によるところでもあるのだが、そのあたりの話はまた次回。
ともかく、想像を超えて繊細でエレガント。それでいて気軽に抜栓して一度に飲み切らずとも楽しめる。ぜひ1本、まずは試してみていただきたい。
取材・撮影/池田一郎
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