「アンパンマン」は大人に不評だった? 本展開催前日の2023年7月21日には、メディアや関係者向けの内覧会が行われ、印刷博物館副館長・宗村泉さん、フレーベル館代表取締役社長・吉川隆樹さん、やなせスタジオ代表取締役・越尾正…
画像ギャラリー「アンパンマン」が誕生して、2023年で50年を迎えました。「アンパンマン」の”はじまり”がわかる「絵本『あんぱんまん』〜はじまりのアンパンマン〜」展が、同年9月24日まで東京文京区の印刷博物館P&Pギャラリーで開催されています。本展は、原画(複製)を含む約50点の作品とともに、絵に”触れて感じる”印刷の仕掛けや、原画が絵本になっていく工程を紹介しています。やなせたかしさん自筆の編集指示が入った展示もあり、イラストなどの仕事を目指す人にとっても楽しめる空間となっています。入場料は無料なので、夏休みのおでかけや自由研究にもおすすめな貴重な機会です。
”はじまり”はひらがなの『あんぱんまん』
子どもから大人まで広く親しまれている「アンパンマン」は、1973年に幼稚園や保育所を通じて販売されるフレーベル館の月刊絵本「キンダーおはなしえほん」10月号に掲載されたのがはじまりです。その時のタイトルは、カタカナではなくひらがなの『あんぱんまん』でした。その理由は、「幼児向けの絵本」ということからだそうです。
その後、なぜカタカナの表記になったのか。やなせたかしさんは自著(『人生なんて夢だけど』(2005年/フレーベル館)の中で、こう述べています。
「平仮名をなぜ片仮名にしたかといえば、ぼくの子どもの頃はパン屋さんの看板は全部『パン』で、これが強烈にインプットされていて『ぱん』だと違和感があるんですね」
フレーベル館刊行のアンパンマン絵本の累計発行部数は、2018年に8000万部を超えており(アニメイラスト本含む)、今もなおその人気は続いています。
展示は、3章構成。第1章は、絵本『あんぱんまん』の全ページの原画(複製)18点を中心に、「アンパンマン」の原点を紹介しています。物語の内容がわかる文章もあるので、絵本を開いて読んでいるようなワクワク感なども楽しめます。
最初の『あんぱんまん』と今のアンパンマンを見比べると、人間味にややリアル感がある印象です…。
第2章では、絵本の原画と絵本製作の裏側を紹介しています。絵本ができていく工程がわかる展示の説明には、漢字にふりがながふってあるので、イラストの多い教科書のようにわかりやすくなっています。文字位置の修正前、修正後など比較してみることができるので、さらに理解が深まります。
第3章では、絵本をより楽しくする”印刷の仕掛け”に触れて体感できるようになっています。何気なく触れてきた絵本の”仕掛け”の、不思議な印刷方法がわかります。
「アンパンマン」は大人に不評だった?
本展開催前日の2023年7月21日には、メディアや関係者向けの内覧会が行われ、印刷博物館副館長・宗村泉さん、フレーベル館代表取締役社長・吉川隆樹さん、やなせスタジオ代表取締役・越尾正子さんらがあいさつをしました。
宗村さんは、「やなせ先生が描いた精巧な原画(複製)を展示しているので、アンパンマンの誕生を間近に感じ取っていただけると思います。原画の繊細なタッチや鮮やかな色彩を再現する印刷の表現力や、原画がどのような形で印刷物になっていくかもご覧いただければと思います」と、話しました。
いまでは”国民的ヒーロー”と呼ばれるほど大人気の「アンパンマン」は、当初、大人からは不評だったそうです。「アンパンマン」が誕生して5年後くらいにフレーベル館の仕事を始めた吉川さんは、保育園や幼稚園へ絵本を紹介しに行った際のエピソードについて話しました。
吉川さんは、当時の反応について「園長から、何これ?こういうマンガみたいなものを保育に持ち込まないでと、いわんばかりにすごく叱られました」と振り返りました。
また、「子どもたちはすごく反応が良くて、瞬く間に人気者になって、本は8000万部できて…。売れてない時からみてきているので、(今年は)感無量の年になっています」と、今もなお続く人気ぶりに感慨深い様子でした。
越尾さんは、「50年を記念して、とても画期的な展覧会が開催されようとしています。どこが画期的かというと、絵本の展覧会というと絵本の原画を展示するのが主流ですが、編集の過程や印刷の指示の出し方など、通常は見られない絵本の出来上がりを目の当たりにすることができるところです。存分に、楽しんでいただけたらと思います」と語りました。
また、「子供の自由研究や、絵本やイラストを描くのが好きな方にとっては、編集の過程を見られる機会は中々ないと思うので色々な方に楽しんでいただきたいと」、本展の魅力にも触れました。
「アンパンマン」が登場したばかりの頃、なぜ大人からの支持をあまり得られなかったのか、越尾さんに尋ねました。
「アンパンマンは”人の形”をしている印象が強くあって、自分の顔を食べさせることが衝撃であり、教育上よくないというのがお母さんや教育者たちのお考えにあったようです。
やなせ先生は、”人の形”をした”アンパン”だから食べられないパンはまずいんじゃない?というところでギャップがあったようですが、子どもたちは好きになってくれて、そうして絵本を見ているうちに、親御さんたちもお話の内容は悪くないのじゃないか、という印象に変わってきて今日まで繋がっているのだと思います」
カセットで何度も曲を聴いて生まれた歌詞
『手のひらを太陽に』(作曲・いずみたく)など、やなせたかしさんは、作詞を手掛けた作品も多く残しています。誰もの耳と心に残る名曲・テレビアニメ『それいけ!アンパンマン』のオープニング主題歌「アンパンマンのマーチ」は、どのように生まれたのか、越尾さんに伺いました。
この曲の”はじまり”は、三木たかしさんの作曲が先にあったといいます。やなせたかしさんは、それを何度もカセットで聴いているうちに、”なんのために生まれて…”という言葉が頭の中に出てきて、詞が生まれていったそうです。
最初の絵本『あんぱんまん』から続く、絵本の表紙が並んだ展示もあります。自分が子どもの頃に読んだものや、親になって子どもと一緒にみたものなど、思い出をふりかえったり、それぞれの「アンパンマン」に出会えるかもしれません。
【絵本『あんぱんまん』〜はじまりのアンパンマン〜展 概要】
【開催期間】2023年7月22日〜2023年9月24日
【開館時間】10時〜18時
【休館日】月曜日(9月18日は開館)、9月19日
【会場】東京都文京区水道1-3-3(トッパン小石川本社ビル)印刷博物館P&Pギャラリー
【入場料】無料
文・写真/大島あずさ
トップの画像は、(C)やなせたかし
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