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酒の造り手だって、そりゃ酒を飲む。誰よりもその酒のことを知り、我が子のように愛する醸造のプロ「杜氏」は、一体どのように呑んでいるのか?燗にすれば旨みが膨らみ、様々な表情を見せる熟成酒。それに合うのは、一体どんな料理なのだろう。熟成酒を極める達人の食卓に伺った。

埼玉県『神亀酒造(株)』

【太田茂典氏】

『神亀酒造(株)』の杜氏、太田茂典氏

1963年、埼玉県生まれ。大学卒業後、コピーライターを経て、30歳で「春鹿」の醸造元・今西清兵衛商店の蔵人に。1999年に神亀に入社。2003年に杜氏に就任。南部杜氏の伝統技術を受け継ぎ、完全発酵にこだわった造りを頑なに守る。

温かいからこそ、料理が生きる

「一年中、いつも燗。70℃とか80℃のチンチンにつけて酌み、ぬるくなっていくいろんな温度を楽しむ」と杜氏は言った。神亀酒造の杜氏・太田茂典さんだ。同蔵はいち早く全量純米酒のみに転換し、しっかりと熟成させてから出荷することで知られている。直近では、代表的銘柄の「神亀」は4年程度、「ひこ孫」は5年程度熟成させたものが順次出荷されているという。

仕込み期間中は、7人ほどの蔵人みんなで賄いを肴に晩酌となる。仕込み期間以外は、太田さんは週に1度ほど蔵で管理業務を行い、蔵元の小川原貴夫社長と一献酌み交わすことが多い。「まず汁を啜って一杯がお決まり。社長のお義母さんが鰹節を削って丁寧にダシを取って作ってくれる味噌汁は、最高のつまみですね」と太田さんは言い、キュッと猪口を干す。

蔵人の食事は基本的にすべて社長の義母・小川原美和子さんの手作り。化学調味料に頼らず、丁寧に調理された素朴な料理が並ぶ。この日は社長の釣果である真鯛の昆布締めや太刀魚の炙りが花を添えた

コクがありながらさらりとした飲み口で、食欲がどんどん湧く食中酒だ。この晩、食卓には、筑前煮、インゲンの胡麻和え、鯖のカレー粉焼き、ゆでキャベツが並んだ。バーナード・リーチがデザインした太田さんお気に入りの取手付きの徳利に神亀を注ぎ、卓上燗つけ器でかなり熱々に温めている。「飛び切り燗(55℃以上)からそれが冷めた人肌まで、どの燗でもそれぞれ味わい深いと思うよ」と太田杜氏は笑顔で酒を注ぐ。

晩酌で呑む酒は決まって神亀を3合ほど。そう話すのは小川原社長。「僕は酒屋の生まれで昔はいろんな酒を散々飲んだけど、神亀に出合ってからは、冗談じゃなく神亀ひと筋。しかも燗しかやらない。身体にスッと入る心地よさ……うん、これでなきゃ」と、社長も負けじといいテンポだ。

なんてことのない普通の家庭料理が燗酒と響き合う

「うちの酒は焼鳥なんかの肉料理や鰻とかと相性がいいと褒められるね。素材の旨みがより膨らんで、脂をスッキリ切ってくれて、確かに合うんだ。でも俺はこういう普通の料理で飲むのが好きだな。なんてことはないけれど、新鮮な野菜とちゃんとした調味料を使って、丹念に作られた家庭料理がね」と、杜氏の頬はさらに緩む。大アジの刺身を頬張った二人は「これには“ひこ”だね」と、ひこ孫も燗に。夜は静かに更けていった。

『神亀酒造(株)』@埼玉県

1848年創業。先代の小川原良征氏が1987年に仕込む酒のすべてを純米酒に転換。戦後初の全量純米蔵になる。代表的銘柄は、2年以上熟成させる「神亀」と、山田錦100%で3年以上熟成させる「ひこ孫」。共に見事な燗上がり。

【神亀 純米酒】

『神亀酒造(株)』の「神亀 純米酒」

【ひこ孫 純米酒】

『神亀酒造(株)』の「ひこ孫 純米酒」
『神亀酒造(株)』

撮影/松村隆史、取材/渡辺高

2023年7月号

※2023年7月号発売時点の情報です。

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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おとなの週末Web編集部
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