「飾りじゃないのよ涙は」中森明菜の突っ張りイメージ
極私的3曲その2は中森明菜に提供して大ヒットとなった「飾りじゃないのよ涙は」だ。 同世代のアイドル、松田聖子に対して中森明菜はどこか突っ張ったイメージがあった。そ んな彼女の突っ張りイメージと「飾りじゃないのよ涙は」はぴったりフィットしていた。
“自分は中森明菜さんのことはテレビで観る以外良く知らないけど、テレビから伝わってくるイメージから何となく曲が出来た”
こう井上陽水は語っている。後に陽水自身もセルフカヴァーした。『歌う見人(ケンジン)』というカセットブックでは「Tangerine Summers」という英題にして、英語で歌唱している。この曲にも思春期のある少女が持つ心を語る普遍性がある。
「星のフラメンコ」西郷輝彦の1966年のヒット曲
21世紀に入るとJ-POPシーンではカヴァー・ブームが起こった。それを先取りするように井上陽水は2001年『UNITED COVER』(ユナイテッド カヴァー)と題した全14曲入りのカヴァー・アルバムを リリースした。ザ・タイガースの「花の首飾り」、早川義夫の「サルビアの花」、西田佐知子の「コーヒー・ルンバ」、高峰秀子の「銀座カンカン娘」、石原裕次郎の「嵐を呼ぶ男」など選曲は多彩で、少年時代に聴いた曲 ミュージシャンを志してから知った愛聴曲が歌われる。
極私的3曲はこの『UNITED COVER』から「星のフラメンコ」を選んだ。原曲は西郷輝彦が1966年にヒットさせた。『UNITED COVER』は歌手井上陽水の凄さを再認識させてくれた。特に「星のフラメンコ」はまるで自分が作ったようなイメージを伝えてくる。有名な歌詞の出始め、”好きなんだけど”と歌い始めた井上陽水にやられたとぼくは思った。単なるシンガーとしてでもやって行ける人、そう感じた。
少々、変則的に極私的3曲を選んだが、絞り切れないほど井上陽水には名曲がある。
岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。