トロッコ電車で雄大な自然と天然湯を満喫
話を戻そう。翌朝、もうひとつの露天風呂からの、まるで絵画のように切り抜かれた景色と源泉掛け流しの温泉を堪能してからチェックアウト。
その足で向かったのが黒部峡谷鉄道の宇奈月駅。そう、宇奈月温泉は黒部峡谷への玄関口でもあるのだ。残暑の涼風を感じながらガタゴト揺れるトロッコ電車に乗って日本一深いV字峡谷を縫うように進めば、人をよせつけない急峻な山々が連なっていた。
その眺望はまさに鳥肌モノで胸に迫るものがある。途中、香淳皇后(こうじゅんこうごう)の父君によって「錦繍関(きんしゅうかん)」と風雅な名前を付けられた場所もあり、取材時は緑だった木々が秋になって色付けば、それこそ綾錦の刺繍をまとった如くだろう。
終点・欅平(けやきだいら)駅までのおよそ80分間、ずぅーっと飽きずに景色ばかりを眺めていた。欅平駅では、黒部川本流に架かる朱塗りの「奥鐘橋(おくかねばし)」や、岩壁が人を飲み込むようにせり出した「人喰岩」など、観光スポットをめぐりながらしばし散策。河原のすぐそばに作られた硫黄の香りのする天然温泉の足湯は清流のせせらぎが心地の良いBGMだ。
もし時間に余裕があれば、駅からすぐの『猿飛山荘』で源泉掛け流しの露天風呂に浸かってみるのもいいだろう。そんなこんなであっという間に旅は終了。宿の露天風呂からの眺めに、神秘的な黒部峡谷に、今もずっと興奮が止まらない。紅や黄色で化粧した山々を楽しめる宇奈月は、これから11月下旬までがベストシーズンだ。
撮影/小島昇 取材/菜々山いく子
※2023年11月号発売時点の情報です。
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