円安は輸出産業にとっては大きなビジネスチャンスとなる。そして高額商品を輸出する国内の自動車メーカーは、軒並み2023年度の収益を伸ばした。ところが国内市場における販売台数に目を移すと、意外な事実が浮かび上がるのだ。日本車メーカーはどうなっているのか?
画像ギャラリー円安は輸出産業にとっては大きなビジネスチャンスとなる。そして高額商品を輸出する国内の自動車メーカーは、軒並み2023年度の収益を伸ばした。ところが国内市場における販売台数に目を移すと、意外な事実が浮かび上がるのだ。日本車メーカーはどうなっているのか?
トヨタは全世界でハイブリッドの販売が好調
2023年度の決算は、各メーカーとも好調であった。特にトヨタでは、本業の儲けを示す営業利益が5兆3500億円余りになり、日本の上場企業では初めて5兆円を超えた。対前年同期比も96.4%に達したから、約2倍に増えている。好調の要因としては、海外市場を含めてハイブリッドの販売が好調で、円安により利益が押し上げられたことも挙げられる。
ほかのメーカーの営業利益も全般的に好調で、ホンダ、マツダ、スバル、三菱、スズキは、いずれも過去最高となった。大半の日本メーカーの足並みがそろい、営業利益が過去最高になった理由は、前述の通り円安の進行だ。今は海外生産も増えているが、輸出台数も多く、円安はプラスに作用する。
新型コロナウイルスの影響が薄れ、海外を中心に販売台数が増えたこともメーカーの利益を押し上げた。各メーカーの対前年同期比を見ると、トヨタに加えてホンダも11%、マツダは12%、スバルは13%増えた。円安によるところが大きいものの、各メーカーは儲かっているといえるだろう。
2024年1~5月の国内販売台数は 前年同期に比べてマイナス15%
しかし国内の販売状況は良好とはいい難い。2024年1~5月の国内販売台数は、前年同期に比べて15%減少した。特に軽自動車は、ダイハツが型式指定申請に関する不正問題によって出荷を停止していた影響を受けて、21%の大幅なマイナスになった。
トヨタは世界的には前述の通り絶好調だが、国内における2024年1~5月の販売台数は、前年同期に比べて20%以上の減少となった。日産、マツダ、スバル、ダイハツも、前年同期を下まわっている。
日本国内の売れ行きが伸び悩む一番の理由は、クルマが日常生活のツールになったことだ。時期によっては国内で販売される新車の40%近くが軽自動車で、ツールだから長く使われる。
ロードスターなど趣味性の強い車種を中心とした高価格化が逆風に
ツールになった背景には、趣味性の強い車種を中心とした高価格化もある。スポーツカーは、マツダロードスターのようなコンパクトな車種でも、大半のグレードの価格が300万円を上まわる。トヨタのアルファード&ヴェルファイア、ランドクルーザー250などは、高価格でも人気が高いが、納期を遅延させて購入しにくい。
このような状況になると、多くのユーザーはクルマに対する夢を諦めて、実用的な車種を割り切って選ぶ。それが販売ランキングの上位に位置するホンダN-BOXやスズキスペーシアのような背の高い軽自動車、あるいはトヨタヤリスや日産ノートのようなコンパクトカー、コンパクトミニバンのトヨタシエンタやホンダフリードだ。
これらの車種は実用性と価格の割安度を重視して選ばれるため、購入後は長期間にわたってしっかりと使われる。クルマの使用方法としては堅実で正しく、環境にも優しいが、売れ行きは伸びない。
ダイハツなど複数のメーカーで型式指定申請の不正が明るみに
しかも直近になり、ダイハツ以外の複数メーカーでも、型式指定申請に関する不正問題が明らかになった。ダイハツについては、2023年5月に次期ムーヴの予約受注を開始したが、不正問題の発覚を受けて停止させた。その後、1年以上を経過した2024年6月現在でも、次期ムーヴの発売時期は明らかにされていない。ダイハツでは「出荷の再開は進んだが、これから発売する新型車の型式指定申請は難しそうだ」と言う。
つまり国内販売台数が減少していて、さらに各メーカーともに、今後登場する新型車の発売延期も考えられる。海外の好調は喜ばしいが、ホームグラウンドにも力を入れて欲しい。
文/渡辺陽一郎(わたなべ よういちろう):自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスに転向した。「読者の皆様にケガをさせない、損をさせないこと」を重視して、ユーザーの立場から、問題提起のある執筆を心掛けている。執筆対象は自動車関連の多岐に渡る。
写真/トヨタ、ホンダ、マツダ、ダイハツ