企業の敷地内などで完全自動運転の試験運用が始まった レベル4は、特定条件下の完全自動運転とされる。限られた地域内で、完全な自動運転を可能にするものだ。これは既に試験的な運用が行われている。例えば企業の敷地内など、内部のす…
画像ギャラリー「自動運転」というと、かつてはSF映画やアニメの中の絵空事だったが、技術の進歩とともに実用化が近づいてきている。新東名では、自動運転の実証実験も始まっている。やがて完全な自動運転が実現すれば、多くの人の助けになるはずだが、果たしてそれが実現するのはいつなのだろうか?
完全な自動運転は5段階中トップのレベル5だけ
国土交通省によると、自動運転は、技術進歩に応じてレベル1からレベル5まで分類される。注意したいのは、レベル1~5のすべてが自動運転ではないことだ。乗員が運転操作を一切せずに公道のどこでも走行できるのは、レベル5に限られる。
レベル1は、既に幅広い車種が採用する衝突被害軽減ブレーキと運転支援機能で、レベル2はその進化型だ。いずれも運転支援機能と安全装備で、自動運転とは呼べない。
条件付き自動運転はレベル3から
レベル3は「条件付き自動運転」とされる。限られた場面では、ドライバーがよそ見をするなど、運転操作から離れても良い。この機能は、日本車では2021年に「ホンダセンシングエリート」の名称で、レジェンドのリース車両に搭載した。渋滞になった時、一定の条件下であれば、ドライバーがナビ画面を使ってTVなどを視聴しても運転支援機能が維持された。
従来の運転支援機能では、ドライバーがステアリングホイールから手を離しても前方を見ていることが前提だが、ホンダセンシングエリートは目を離すことも可能にした。
しかし速度が上昇すれば、ドライバーは運転に戻らねばならない。またシステムから要求があった時も、適切に対応することが必要だ。つまり高速道路の渋滞でDVDを視聴しても、即座に運転できる状態を保たねばならない。そうなると実質的には運転支援に近い。DVDに没頭したら、即座に運転に戻ることは難しいからだ。
企業の敷地内などで完全自動運転の試験運用が始まった
レベル4は、特定条件下の完全自動運転とされる。限られた地域内で、完全な自動運転を可能にするものだ。これは既に試験的な運用が行われている。例えば企業の敷地内など、内部のすべての人が自動運転車の運行を認識していれば、完全な自動運転も可能だ。特に車道と歩道がすべて分離され、交差点に必ず信号と横断歩道があれば、安全を高い水準で担保できる。
困難が伴うのはレベル5だ。一般公道での完全な自動運転だから、人通りの多い裏道まで走らねばならない。道幅の狭い混雑した場所の通行では、対向車のドライバーや歩行者に挨拶して道を譲ってもらったり、逆に譲って通行を促すこともある。運転技量に加えて、優れたコミュニケーション能力も必要だ。
また高度な自動運転では、車両同士の通信も重要になる。そうなると自動運転車と従来の手動運転車が混在していると、運行が難しくなる。すべてをクルマに任せる完全な自動運転を実現するには、周囲の車両もすべて同様の自動運転車になり、集中的な交通管理と自動運転車同士の通信と制御が不可欠だ。
すべての道を網羅する完全な自動運転実現はいつか?
以上を踏まえると、限られた地域やルート上の自動運転は比較的早い時期に実現されても、すべての道を網羅する完全な自動運転の実用化はかなり先の話になる。
従って自動運転の実用化は、先を急ぐべきではない。最も心配されるのは、先を急いだ揚げ句、世間が「自動運転は結局、実現不可能な技術」と諦めてしまうことだ。クルマには不公平という重大な欠点があり、目が不自由だったりすれば、運転免許を取得できず、1人ではクルマを使って外出できない。
この不公平を解消して、すべての人が等しくクルマを使えるのが自動運転だ。
安全のためには運転免許の返納は大切だが、高齢になり、坂道が辛くなった時にクルマを放棄させられるのは本末転倒だ。この課題も自動運転が実現すれば解決する。
クルマがその名称通りの「自動車」になるには、自動運転が不可欠だから、焦らず着実に進化させたい。これは電気自動車にも当てはまる話だ。
文/渡辺陽一郎(わたなべ よういちろう):自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスに転向した。「読者の皆様にケガをさせない、損をさせないこと」を重視して、ユーザーの立場から、問題提起のある執筆を心掛けている。執筆対象は自動車関連の多岐に渡る。
写真/ホンダ、Adobe Stock(アイキャッチ画像:metamorworks@Adobe Stock)