皇族旗の制定
「天皇旗」以外にも、「皇族旗」と呼ばれるものが存在することをご存じだろうか。近年でも、国民の前で使われたことは数例しかなく、天皇陛下の例でも皇太子になられたときの儀式「立太子の礼」、皇太子殿下の公式行事における地方訪問の際と、秋篠宮同妃両殿下では「ご結婚」の時と、皇嗣になられてからの一部の公式行事に限られた。これらはいずれも、行事に使用されたクルマに掲げられたものだった。
こうした皇族旗は、1926(大正15)年10月に制定された「皇室儀制令」で定められたもので、同時に天皇家の紋章を「十六葉八重表菊形」、宮家皇族の紋章は「十四葉一重裏菊形」とすることが決められた。旗章は、「天皇旗」「大皇太后(たいこうたいごう)・皇太后・皇后旗」、「摂政旗」、「皇太子・皇太孫旗」、「皇太子妃・皇太孫妃旗」、「親王旗・親王妃・内親王・王・王妃・女王旗」の6種類だった。
この皇室儀制令は、戦後の1947(昭和22)年に廃止され、現行法である「皇室典範」には継承されていない。このため、現在ある紋章や旗章は、宮内庁のローカルルールとして旧令を準用したものだという。
現在ある旗章と紋章
現代において、皇室の紋章や旗章が使われることは、限られた行事でしかなく、我々が目にする機会は少ない。それも、「御料自動車」や「お召列車」「お召船」といった乗り物に使用されることがほとんどだ。
旗章の場合、「国会開会式」や「全国戦没者追悼式」といった国家行事へお出ましになる天皇陛下の御料自動車に「天皇旗」が掲出される。同じように「皇后旗」は、皇后陛下おひと方でご出席される「全国赤十字大会」などに限られる。伊勢神宮参拝の際に御料自動車に掲出されることがあるが、これは即位などの重要儀式に関連した参拝に限ったことで、他例では、「天皇旗」が御料自動車以外に掲出されるのはお召船くらいであろうか。「皇太子旗」や「皇族旗」も、見られる機会は少ない。令和の時代になってからは、上皇陛下用の「上皇旗」が新たに加えられた。
一方、紋章については、お召列車に使用されることが知られる。これは専用の車両(JR東日本E655系)を使用したお召列車に限られたことであるが、一般の車両を使用したお召列車にも使用したこともある。戦前期では、旧海軍の軍艦に取り付けられていたことも知られるところだろう。他例では、家紋に菊をあしらったものがあるほか、皇室ゆかりの神宮や神社といった施設でも「菊の紋章」は使われている。
文・写真/工藤直通
くどう・なおみち。日本地方新聞協会皇室担当写真記者。1970年、東京都生まれ。10歳から始めた鉄道写真をきっかけに、中学生の頃より特別列車(お召列車)の撮影を通じて皇室に関心をもつようになる。高校在学中から出版業に携わり、以降、乗り物を通じた皇室取材を重ねる。著書に「天皇陛下と皇族方と乗り物と」(講談社ビーシー/講談社)、「天皇陛下と鉄道」(交通新聞社)など。