■シャープはなぜiPhoneを生み出せなかったのか
電子手帳、個人用情報端末(ザウルス)、電子辞書、ビデオカメラ(ビューカム)、カメラ付き携帯電話。これらはすべて、私が勤める会社が過去に先陣を切って手がけたモノだ。その当時にヒット商品として一世を風靡したモノもある。しかし現在は「それだけの数々を手がけていながら、なぜiPhoneを生み出せなかったのか」と、しばしば世間から詰問の対象とされるモノたちである。
言うまでもなく、結果論だ。「出す時期が早すぎた」と答えても、「なぜ早すぎたのか」と、なぜを重ねられるだろう。エンドレスの詰問を終わらせられるような明瞭な分析など、当時を知らない私ができるはずもないし、たぶんそれらを開発してきた当事者も、確定的な答えなど持っていないと思う。かろうじて顔が思い浮かぶ先輩を思い出しても、「結局は運だよ」と言って、ニコニコはぐらかされるような気もする。
少なくとも私が確信するのは、その当時のベストを尽くした結果なのだろうということだ。その当時の技術と世間を調べ尽くして、あらわれたニーズに場当たり的に全力を尽くした結果が、あの時々の製品なのだと思う。そしてその全力は、あとからなんとでも言われてもいいと思えるほどの、全力だったのではないか。
なぜなら当時の熱量を、私は「なぜiPhoneを生み出せなかったのか」という詰問の裏に感じるのだ。その詰問を何度もSNSで浴びるうちに、あれは詰問ではなく、かつてiPhoneになれなかったモノの全力に希望を感じたお客さんからの、遅れた激励なのだと解釈するようになった。以降の私は、そこに愛や期待があるのであれば、結果論も悪くないなと思っている。
文・山本隆博(シャープ公式Twitter(X)運用者)
テレビCMなどのマス広告を担当後、流れ流れてSNSへ。ときにゆるいと称されるツイートで、企業コミュニケーションと広告の新しいあり方を模索している。2018年東京コピーライターズクラブ新人賞、2021ACCブロンズ。2019年には『フォーブスジャパン』によるトップインフルエンサー50人に選ばれたことも。近著『スマホ片手に、しんどい夜に。』(講談社ビーシー)
まんが・松井雪子
漫画家、小説家。『スピカにおまかせ』(角川書店)、『家庭科のじかん』(祥伝社)、『犬と遊ぼ!』(講談社)、『イエロー』(講談社)、『肉と衣のあいだに神は宿る』(文藝春秋)、『ベストカー』(講談社ビーシー)にて「松井くるまりこ」名義で4コママンガ連載中