川にかかる橋の近くには、小教区教会があり、その中に、サンティアゴが乗ってきた舟をつないだという石がありました。その石をパドロンと呼ぶのだそうです。カトリック教徒にとって、ここは聖地です。また、世界的な名所なのです。
お土産を売る店がならんでいました。なんとどの店も、ホタテ、ホタテです。ホタテをデザインした銀細工、イヤリングやブローチ、ネックレス、それからスプーンなどホタテづくしです。ホタテ料理を目玉にしたレストランもたくさんありました。店の人に聞くと、目の前の海が、昔からホタテ貝がたくさんとれるところとして有名なのだそうです。
これでわかりました。サンティアゴのしるしがホタテ貝の殻なのは、フランスから巡礼に来た人々が、この地パドロンで名物のホタテ貝を食べたからです。
そして、聖地にきた記念に、軽くて、こわれにくく、デザインのいいホタテの殻をおみやげに持ち帰ったのでしょう。それが、この地にきた証拠にもなったのです。それから、巡礼に訪れる人々が、そのしるしとして、この貝殻を身につけて来るようになったのですね。
フランス語で、ホタテ貝のことを、コキーユ・サンジャック(聖ヤコブの貝)ということがやっとわかりました。
でも、なぜここがホタテ貝の産地かといえば、ウリァ川が運んでくる森の養分がえさになる植物プランクトンを育み、また川が運ぶ砂が、ホタテ貝が好む砂地を海底につくっているからなのです。
聖地巡礼の歴史も、リアス海岸という背景があったからなのですね。ここもやっぱり「森は海の恋人」の世界でした。
…つづく「「こんなうまいものがあるのか」…20歳の青年が、オホーツクの旅で《ホタテ貝の刺し身》に感動、その後始めた「意外な商売」」では、かきじいさんが青年だったころのお話にさかのぼります。
連載『カキじいさん、世界へ行く!』第8回
構成/高木香織
●プロフィール
畠山重篤(はたけやま・しげあつ)
1943年、中国・上海生まれ。宮城県でカキ・ホタテの養殖業を営む。「牡蠣の森を慕う会」代表。1989年より「海は森の恋人」を合い言葉に植林活動を続ける。一方、子どもたちを海に招き、体験学習を行っている。『漁師さんの森づくり』(講談社)で小学館児童出版文化賞・産経児童出版文化賞JR賞、『日本〈汽水〉紀行』(文藝春秋)で日本エッセイスト・クラブ賞、『鉄は魔法つかい:命と地球をはぐくむ「鉄」物語』(小学館)で産経児童出版文化賞産経新聞社賞を受賞。その他の著書に『森は海の恋人』(北斗出版)、『リアスの海辺から』『牡蠣礼讃』(ともに文藝春秋)などがある。