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通訳は、オルロフ・ウラジーミルさん。オルロフはワシ、ウラジーはもたらす、ミルは平和の意味だそうです。講演の原稿はあらかじめ送ってありました。2012年、わたしは森林を守ることに貢献した人「フォレスト・ヒーローズ」として、国連から表彰されていましたので、パンフレットにそのことが大きく紹介されていたのです。

会場は自然利用・環境学部の学生を中心に満席でした。今まででもっとも多いと学部長も喜んでいます。

翌日の植樹祭はアムール虎の保護のためです。虎の話かと思われたかもしれませんが、わたしがアムール川の河川水は、はるか800キロメートル先のオホーツク海、そして3,000キロメートル先の北太平洋の海の生物をも育んでいることを説明すると、「ハラショー(すばらしい)」という声が次々に聞こえてきたのです。

川の水は鉄の味

5月8日の植林祭も快晴でした。33年もの間、「森は海の恋人植樹祭」は雨で取り止めになったことは一度もなく、文字通りわたしは晴れ男です。

ロシアの大地に「チョウセンゴヨウ」の苗をしっかり植えました。アムール虎のえさのため、そしてオホーツク海、北太平洋の三陸沖の魚たちのために祈りました。

「フルボ酸鉄をいっぱいつくってください」

10日にはアムール川のそばまで行ってみました。大きな川です。かすかに向こう側が見えます。中国です。川の水を手ですくって飲んでみました。わたしはどこの川に行っても水を飲むのです。まちがいありません、フルボ酸鉄の味がします。わたしの舌は、鉄の味がわかるのです。

川を周遊する観光船に乗ってみました。中国側に渡る船も出ています。上流側にも長い鉄橋が見えます。日本海側のウラジオストックからロシアの首都、モスクワまで行くシベリア鉄道の橋だそうです。太平洋戦争によって捕虜になり亡くなった方々のお墓があります。お花を買ってお参りをしました。

川辺に日本とも関係のある先住民の遺跡があるというので行ってみました。石に彫られてある模様を見てびっくりしました。北海道白老町のアイヌ史跡で見た模様とそっくりなのです。北方の人たちはきっと交流していたのですね。

帰国して、白岩先生に報告しました。すると、

「アムール川流域にも開発の波が押し寄せています。巨大ダムの建設、湿地の大規模な農地化、工場廃水など、世界共通の問題です。人間の意識をどう変えていくか、子どものころからの教育が大事でしょうね。いい旅でしたね」

とほめていただきました。

…つづく「こんなうまいものがあるのか」…20歳の青年が、オホーツクの旅で《ホタテ貝の刺し身》に感動、その後はじめた「意外な商売」では、かきじいさんが青年だったころのお話にさかのぼります。

連載カキじいさん、世界へ行く!第26回
構成/高木香織

●プロフィール
畠山重篤(はたけやま・しげあつ)

1943年、中国・上海生まれ。宮城県でカキ・ホタテの養殖業を営む。「牡蠣の森を慕う会」代表。1989年より「海は森の恋人」を合い言葉に植林活動を続ける。『漁師さんの森づくり』(講談社)で小学館児童出版文化賞・産経児童出版文化賞JR賞、『日本〈汽水〉紀行』(文藝春秋)で日本エッセイスト・クラブ賞、『鉄は魔法つかい:命と地球をはぐくむ「鉄」物語』(小学館)で産経児童出版文化賞産経新聞社賞を受賞。その他の著書に『森は海の恋人』(北斗出版)、『リアスの海辺から』『牡蠣礼讃』(ともに文藝春秋)などがある。2025年、逝去。

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高木 香織
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