ウナギの森植樹祭
そうしているうちに、大阪湾にそそぐ淀川河口で、天然ウナギをとっている漁師さんがいるという話をしてくれて、見学に行きました。五人ほどの漁師さんが春から秋にかけて、1人1,000匹ほどとっているのです。東北地方に住んでいると、淀川はきれいでないイメージがありました。そこで、ウナギのために川をきれいにしようと、「ウナギの森植樹祭」をすることになったのです。大阪市から少し上流の高槻市の山に、です。
2019年5月、その前夜祭に写真家の大竹英洋君が来たのです。こうして、大竹君からアメリカのメサビ鉄山の話を聞き、ミシシッピが近づいたのです。
大竹君は一橋大学社会学部卒です。学生時代ワンダーフォーゲル部に属し日本中の山や川をテントをかついで旅する生活を続けていました。
大手銀行に就職が決まっていましたが、大自然から離れた生活はどうしてもできないと悩みました。そんなとき、大竹君の憧れのカメラマンである、ジム・ブランデンバーグさんがアメリカの五大湖近くのミネソタ州の北側に連なる、ノースウッズという湖沼地帯に住んでいることがわかりました。ブランデンバーグさんは、国際的に有名な自然科学誌「ナショナルジオグラフィック」の常連でした。
矢も盾もたまらず、大竹君はリュックを背負って訪ねたのです。大竹君の情熱は著名な写真家の心を動かし、ノースウッズでの撮影の面倒をみてくれることになったのです。
ノースウッズには日本では絶滅してしまった野生のオオカミがいることで有名です。でも、警戒心が強くいい写真はなかったそうです。大変な苦労をして大竹君は撮影に成功し、ブランデンバーグさんの紹介もあって、ナショナルジオグラフィック誌に写真が載ったのです。国際的なカメラマンとして認められたのです。
…つづく『「こんなうまいものがあるのか」…20歳の青年が、オホーツクの旅で《ホタテ貝の刺し身》に感動、その後はじめた「意外な商売」』では、かきじいさんが青年だったころのお話にさかのぼります。
連載『カキじいさん、世界へ行く!』第28回
構成/高木香織
●プロフィール
畠山重篤(はたけやま・しげあつ)
1943年、中国・上海生まれ。宮城県でカキ・ホタテの養殖業を営む。「牡蠣の森を慕う会」代表。1989年より「海は森の恋人」を合い言葉に植林活動を続ける。『漁師さんの森づくり』(講談社)で小学館児童出版文化賞・産経児童出版文化賞JR賞、『日本〈汽水〉紀行』(文藝春秋)で日本エッセイスト・クラブ賞、『鉄は魔法つかい:命と地球をはぐくむ「鉄」物語』(小学館)で産経児童出版文化賞産経新聞社賞を受賞。その他の著書に『森は海の恋人』(北斗出版)、『リアスの海辺から』『牡蠣礼讃』(ともに文藝春秋)などがある。2025年、逝去。

