おとなの週末的クルマ考

ホンダ初の本格ミニバン 1990年代のホンダ復活の決定打は初代オデッセイではなく初代ステップワゴンだった 

初代ステップワゴンは大ヒット!!

初代ステップワゴンはホンダのクリエイティブムーバーの第3弾として登場し大ヒットしました!!

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今でこそ世界で確固たる地位を築いている日本車だが、暗黒のオイルショックで牙を抜かれた1970年代、それを克服し高性能化が顕著になりイケイケ状態だった1980年代、バブル崩壊により1989年を頂点に凋落の兆しを見せた1990年代など波乱万丈の変遷をたどった。高性能や豪華さで魅了したクルマ、デザインで賛否分かれたクルマ、時代を先取りして成功したクルマ、逆にそれが仇となったクルマなどなどいろいろ。本連載は昭和40年代に生まれたオジサンによる日本車回顧録。連載第44回目に取り上げるのは1996年に登場した初代ホンダステップワゴンだ。

ホンダが日産と経営統合の検討開始

ステップワゴンこそ1990年代のホンダの救世主

2024年12月23日に、本田技研工業(以下ホンダ)は日産と経営統合に向けた検討を開始したと正式に発表。夏頃から噂にはなっていたが、2024年クルマ界最大のニュースで年末の話題を独占した感がある。このホンダと日産の経営統合については、2025年1月に三菱自動車が加わる予定となっている。1994年にローバー・グループと提携解消後、基本的に他メーカーと資本提携せずピンで奮闘してきたホンダだけに、今後の動向がさらに注目されている。

2024年12月のホンダ、日産、三菱の共同記者会見

RVブームに乗り遅れたホンダ

ホンダは1990年9月にミドシップスポーツカーのNSXを日本で販売開始。スポーツイメージを確立することに成功したホンダだったが、その販売は長続きしなかった。

それよりも深刻だったのは、1991年の2代目三菱パジェロの登場を機に一大ブームとなったRV(当時はレクレーショナルビークル)をラインナップしていなかったことだ。シビックは4代目(1987~1991年)、5代目(1991~1995年)とも50万台を超える販売を見せるなど健闘していたが、4代目アコード(1989~1994年)が大きく販売を落としたのに加えて2代目シティ(1986~1995年)の不振もあり伸び悩んでいた。

ホンダは自社製のRV系モデルを持っていなかったため、ジャズ(いすゞミューのOEM)、クロスロード(ローバーディスカバリー)、ジープチェロキーを販売するなど迷走していた感は否めない。

RVへの対応遅れからいすゞミューをジャズとして販売

ホンダが三菱に買収される!?

逆に当時RVブームにしっかりと乗ったのが三菱。パジェロに加えてデリカスターワゴン、シャリオも人気となったし、なによりもバブル期に設備投資を抑えたことが奏功。加えて税制改正のタイミングに合わせて登場させた初代ディアマンテが大ヒットするなど業績は好調だった。

ホンダ&三菱の日本国内シェア】※出典:日本自動車工業会統計データ
1990年:ホンダ(11.0%)/三菱(7.6%)
1991年:ホンダ(11.6%)/三菱(8.4%)
1992年:ホンダ(11.3%)/三菱(9.0%)
1993年:ホンダ(13.0%)/三菱(9.8%)
1994年:ホンダ(9.9%)/三菱(10.0%)
1995年:ホンダ(10.7%)/三菱(10.8%)
1996年:ホンダ(12.8%)/三菱(8.9%)

1994年に登場したオデッセイだが、ホンダは1994年、1995年はシェアを落としている

三菱のシェアは三菱ふそうを含むものだが、ホンダと三菱はトヨタ、日産につぐ3位の座をかけて熾烈な争いを展開していた。そして1994年、1995年は三菱がホンダを抑えて3位となっていたのだ。1994年には初代オデッセイ、1995年には初代CR-Vがそれぞれ大ヒットしていたにもかかわらず、ホンダは大きくシェアを下げている。

この頃に流れたのが、「ホンダが三菱に買収される」という噂だった。これはホンダのメインバンクが三菱と同じ三菱銀行(現三菱UFJ銀行)だったため流れた噂だったが、当時はかなり話題になっていた。

1995年登場の初代CR-Vのヒットもホンダには追い風となった

ホンダ復活の決定打

ホンダは1996年にシェアを大きく回復させた。クリエイティブムーバーと呼ばれる乗用車をベースとしたRVが大人気となった。第一弾の初代オデッセイ、第2弾の初代CR-Vが軌道に乗ったのも大きかったが、第3弾として登場したBOXタイプミニバンの初代ステップワゴンがデビューしたのが大きい。まさに決定打となったのだ。

クリエイティブムーバーは、「ホンダが作るRV」という付加価値がつき、ファンから絶大な支持を得たのだ。

ホンダが初めてチャレンジしたBOXタイプミニバンとして初代ステップワゴンは大人気

BOXタイプミニバンとしては後発

初代オデッセイが乗用タイプミニバンという新ジャンルを構築したパイオニアであるのに対し、ステップワゴンは従来の1BOXとは違いノーズのある1.5BOXで登場。当時は背の低い乗用タイプミニバン、背の高いBOXタイプミニバンのどちらも人気だった。

先輩格であるセレナとは現在も熾烈なライバル関係にある

このBOXタイプミニバンというジャンルは初代トヨタエスティマが先鞭をつけ、エスティマでは大きすぎるというユーザーに向けて登場させたルシーダ/エミーナが大ヒット。トヨタには商用車のタウンエース/ライトエースにもワゴンモデルを設定していたが商用車色が強く人気はイマイチ。日産は1991年に商用車のバネットの乗用モデルであるバネットセレナを登場させ人気となっていた。1994年のマイチェンでバネットの名前が消えてセレナとなって現在に至る。

つまりステップワゴンはBOXタイプミニバンとしてはかなり後発ということになる。

ボクシーなデザインで四隅が掴みやすい

郷愁を誘う車名

ホンダ初のBOXタイプミニバンとなったステップワゴンだが、その車名はオールドファンにとってステップバンを思い出させてくれるという点でも好評だった。ステップバンの正式名称はライフステップバンで、軽乗用車のライフをベースとした軽商用バン。1972~1974年と短命に終わったがインパクトは絶大だった。

ちなみにクリエイティブムーバーの第4弾として登場したハイトワゴンのS-MXは『ステップバーン』という愛称が与えられていたが、残念ながらあまり浸透しなかった。

ライフの商用バンのステップバンはビジネス以外で若者から大人気

扱いやすいサイズ

初代ステップワゴンのボディサイズは、全長4605×全幅1695×全高1845mm。現行のステップワゴン全長4830×全幅1750×全高1840mmだからそれほど大差ない。全幅こそ1700mmを超えてしまったが、日本車が続々と大型化されるなか、2LクラスBOXタイプミニバンは、今でも使いやすいサイズにこだわって大型化を最小限にとどめている。これが長年ヒットを続けている大きな要因となっているのは間違いない。

今見ても四角さが強調されているリアビュー

デザインは見てのとおり武骨なまでの四角さが最大の特徴だ。しかしこの四角いボディゆえにクルマの四隅が掴みやすく、これが運転のしやすさにつながる。デビュー当初、オデッセイなどに比べて背が高いため運転しづらいとBOXタイプミニバンは奥様方が敬遠しがち、という意見もあったが、実際には全幅は5ナンバーで車両感覚が掴みやすいとファミリー層から支持を受けるに至っている。当時のホンダディーラーマンの間では、『ステップワゴンは一度試乗させれば勝ち』というのが合言葉になっていたほどだ。

Gコントロールの安全ボディはマイチェン後に採用

走って楽しい新しい世界

初代ステップワゴンはホンダを救うヒットモデルとなったが、走りのよさも無視できない要素だ。これは歴代ステップワゴンに踏襲されるコンセプトで、ライバルのセレナ、ノア/ヴォクシーに対しても軽快なハンドリングが魅力となっている。初代ステップワゴンは、2L、直4DOHCエンジンを搭載。最高出力は125ps、最大トルクは18.5kgmと特筆するようなスペックはないが、ホンダエンジン特有のスムーズで軽い吹け上がりなど、エンジンフィールの気持ちよさが走りの軽快感にも大きく影響している。

長年スポーツカーなどに乗ってきた走り好きにとって、「家族のためにミニバンに乗る」ことは「走りから足を洗う」というカーライフの墓場的な意味にとらえられがちだったが、走って楽しいステップワゴンが新たな世界を提供してくれたのだ。

ウォークスルーのためコラムシフトを採用

5人乗り仕様と8人乗り仕様を設定

当時のミニバンといえばシートアレンジ。シートアレンジのバリエーションの多さを競ったものだ。それは初代ステップワゴンも同じ。フルフラット、ウォークスルー、助手席の回転対座などなど、現代のミニバン以上の多機能シートがウリだった。フルフラットなど買ってから何度かしかやったことなくても、フルフラットになることが重要だった。

見事なまでにフルフラットとなるシシート

ステップワゴンには2列シート5人乗り仕様(2-3)と3列シート8人乗り(2-3-3)を設定していた。販売のほとんどは8人乗りだったが、3列目シートが不要でワゴン的に使う人、商用車的に荷物を大量に積みたい人にとって5人乗り仕様は重宝した。ただし、3列目シートは跳ね上げ式収納だったため、たためば自転車を搭載できるだけのスペースを確保することができた。

8人乗りの2列目はポップアップと回転対座が選べた

フィールドデッキも用意

初代ステップワゴンは特別仕様車が数多く設定され人気となっていたのも特徴だ。なかでも変わり種はフィールドデッキ。マツダボンゴフレンディがポップアップルーフを採用して話題になっていたが、フィールドデッキもFRP製のルーフ上に居住スペースを設けたモデルでホンダ純正の特装車だった。販売はそれほど多くなかったが、キャンパーや当時は少数派だった車中泊好きには根強い人気を誇った。

ポップアップルーフ装着のフィールドデッキ。オデッセイにお設定されていた

現行モデルは初代への原点回帰

初代ステップワゴンは約48万台を販売する大ヒットモデルとなった。ホンダ初のBOXタイプミニバンは、やはりホンダが作るRVというイメージ戦略が大きく、現在に至るまで販売されている。現行のステップワゴンは特にデザイン面でシンプルさを追求し、原点回帰している。少々地味すぎるように感じられるが、無駄を省いた飽きのこないデザインは時間的耐久性に優れているとデザインの専門家からの評価は高い。

現行ステップワゴンのシンプルなデザインは評価が分かれる

【初代ホンダステップワゴン主要諸元】
全長4605×全幅1695×全高1845mm
ホイールベース:2800mm
車両重量:1520kg
エンジン:1972cc、直4DOHC
最高出力:125ps/5500rpm
最大トルク:18.5kgm/4200rpm
価格:201万8000円(4WD・4AT)

【豆知識】
クリエイティブムーバーとはホンダが1990年代に販売した一連のRV車のシリーズ名称だ。第一弾が乗用タイプミニバンの初代オデッセイ、第2弾がSUVの初代CR-V、第3弾がBOXタイプミニバンの初代ステップワゴン、第4弾がハイトワゴンのS-MX、第5弾が大型ミニバンのラグレイト(北米で販売していたオデッセイ)の5車種を指す。S-MXを除き販売面では成功し、ホンダの躍進に大きく貢献。基本はFF乗用車用のプラットフォームを使っているという共通点があり、RVと呼ばれるジャンルのクルマに新風を巻き起こした。

意欲作だったS-MXは販売面で苦戦し一代限りで消滅

市原信幸
1966年、広島県生まれのかに座。この世代の例にもれず小学生の時に池沢早人師(旧ペンネームは池沢さとし)先生の漫画『サーキットの狼』(『週刊少年ジャンプ』に1975~1979年連載)に端を発するスーパーカーブームを経験。ブームが去った後もクルマ濃度は薄まるどころか増すばかり。大学入学時に上京し、新卒で三推社(現講談社ビーシー)に入社。以後、30年近く『ベストカー』の編集に携わる。

写真/HONDA、ベストカー

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