年々シェアを拡大しているのが「ネット販売」だ。店舗に出向く必要がなく、品ぞろえが豊富で、配送もしてくれる。サービスによっては、実店舗より安くなることも。そうなるとクルマについても気になるところだが、国産車メーカーによる新車販売では、ほとんど普及していない。その理由はどのようなものだろうか?
画像ギャラリー年々シェアを拡大しているのが「ネット販売」だ。店舗に出向く必要がなく、品ぞろえが豊富で、配送もしてくれる。サービスによっては、実店舗より安くなることも。そうなるとクルマについても気になるところだが、国産車メーカーによる新車販売では、ほとんど普及していない。その理由はどのようなものだろうか?
Web会議システムや電子印鑑などを活用することもできるはずだが
今は大半の商品がインターネットを使って販売されている。自宅で注文すると配達され、店舗まで出向く必要はない。
クルマの契約には、署名や捺印が必要だが、この面倒は解決されつつある。ウェブ会議システムを使えば、実際に面接しているように商談を行える。宅急便などで注文書の書類を送ってもらい、ウェブ会議システムを使ってアドバイスを受けながら署名や捺印をして、返送することも可能だ。
電子印鑑を活用すれば、すべてをネットだけで済ませることもできる。車庫証明の手続きなどは販売会社に依頼して、クルマは自宅まで届けてもらう。新車をインターネットだけで購入して、納車を受けることは、技術的には不可能ではない。
それなのに実際は、インターネットだけでクルマの売買が完結する販売方法はほとんど採用されていない。トヨタが運営する定額制カーリースのKINTOも、「納車場所は販売店のみ」としている。大半のプロセスをインターネットで済ませられるのに、最後の納車では、ユーザーが販売店まで出向く必要がある。
ディーラーに出向かなければならない理由とは?
その理由は、クルマの運行では、カーリースも含めてユーザーと販売店の密接な連携が重要になるからだ。クルマは家電製品と違って、定期的に車検や点検を受けねばならない。リコールが発生して、ユーザーが自分で車両を販売店へ持ち込むことも考えられる。
クルマは屋外で使われる移動手段だから、交通事故を発生させて乗員や歩行者にケガを負わせる危険もあり、安全な運行のためには販売店のサポートが不可だ。そのためにインターネットだけで完結させるわけにはいかない。
以前は、クルマには登録(軽自動車は届け出)の制度があり、署名や捺印も必要で、販売店に出向かず購入するのは困難だといわれていた。それが今はインターネットの普及で、事務的には販売店へ出向く必要はなくなったが、安全のために販売店との関係を保つことが大切になっている。クルマの売り方は昭和の時代を引きずっているように思えるが、販売店をなくすことのできない特別な商品なのだ。
文/渡辺陽一郎(わたなべ よういちろう):自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスに転向した。「読者の皆様にケガをさせない、損をさせないこと」を重視して、ユーザーの立場から、問題提起のある執筆を心掛けている。執筆対象は自動車関連の多岐に渡る。
写真/Adobe Stock(アイキャッチ画像:Ruslan@Adobe Stock)