お子さまたちを詠まれた美智子さま
浩宮さまが初等科高学年だった昭和46年、美智子さまは剣道の寒稽古の朝の様子を歌を詠まれている。
夢
剣によする少年の夢すこやかに子は馳せゆきぬ寒稽古の朝を
早朝まだ薄暗いなか、お子さまたちが寒稽古の時間に間に合うよう元気いっぱい走っていく。その姿を頼もしく、大きな夢に向かって走っていくようだとお感じになられたのかもしれない。
歌会始がよく知られているが、毎月ごとに歴代の皇后がお決めになった「月次兼題」を受けて、妃殿下がたが歌を詠まれる勉強会が持たれる。宮中にあって、和歌のたしなみは必要不可欠なのだ。
美智子さまは、ご成婚前の3カ月間、歌人の五島美代子さんに御作歌指導を受けられた。それまで美智子さまは本格的に和歌を学ばれたことはなかった。
3カ月といえば、100日たらずである。たった100日ほどの学びで国民にも見せられる歌をつくれるようにならねばならないのだ。短期間に歌の心をどう伝えたらいいのだろうか。そこで、五島さんは美智子さまに「1日1首百日の行」を守るようにと指導したのである。
「必ずしも1日に1首できなくても、歌を考える時間を5分でも持ち、疲れていて眠くても必ずその日の感動を振り返って表現してみること」を、五島さんは美智子さまに課したのである。
そうして、「歌をつくるのに虚飾いらない。人聞きのいい上手な歌を作ろうと思わずに、恥ずかしくても苦しくても、ありのままの自分を神のまえに晒すような気持ちでお歌いになるように」と、美智子さまを励ましたという。
剣道の寒稽古の朝を詠まれた美智子さまのお歌からは、朝の温かな雑炊の香りと、夕暮れに帰ってくる子どもたちを迎える「あたたかなホーム」の風景が目に浮かんでくるようである。
参考文献/『皇后さまと子どもたち』(宮内庁侍従職監修、毎日新聞社)、 『皇后陛下御歌集 瀬音』(大東出版社)、『美智子皇后「みのりの秋」』(渡辺みどり著、講談社+α文庫)
文/高木香織
たかぎ・かおり。出版社勤務を経て編集・文筆業。皇室や王室の本を多く手掛ける。書籍の編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(ともにこう書房)、『美智子さまに学ぶエレガンス』(学研プラス)、『美智子さま あの日あのとき』、『日めくり31日カレンダー 永遠に伝えたい美智子さまのお心』『ローマ法王の言葉』(すべて講談社)、『美智子さま いのちの旅―未来へー』(講談社ビーシー/講談社)など。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(共著/リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)。