皇太子浩宮さま(今の天皇陛下)と雅子さまの初めての出会いは、1986年10月。東宮御所で開かれたスペイン王国エレナ王女(当時)の歓迎レセプションの席上だった。その後、雅子さまを東宮御所にお招きして会われることもあったという。あるとき、大膳(天皇家の調理担当)が浩宮さまからリクエストされたのは、「牛フィレ肉のロッシーニ風」。フランス料理のメインとして知られるこのメニューをリクエストされたのは、なぜなのか。今回は、雅子さまのお誕生日(12月9日)に浩宮さまがご用意された、お祝いの一皿の物語である。
特別な日に、とりわけおいしい料理を
「雅子さんは、肉料理がお好きらしい」――。
そんな情報をキャッチした浩宮さま。出会ってしばらくたつと、雅子さまのお好みもだんだんわかってくる。どうも肉料理がお好みのようだった。
エレナ王女の歓迎レセプションで26歳の浩宮さまと出会った雅子さまは、外交官試験に合格したばかりで、美貌というよりはまだ幼さの残るたたずまいだった。相手を尊重して人の話に耳を傾け、ていねいに受け答えをされる。姿勢やマナー、ファッションも洗練されていて、お相手に好印象を与える方だった。
東宮御所に雅子さまをお招きしたある日のこと、浩宮さまはいつもと違う豪華な料理をリクエストされた。高級食材をふんだんに使う「牛フィレ肉のロッシーニ風」である。
その日は雅子さまのお誕生日。雅子さまが肉料理をお好きらしいと知った浩宮さまが、特別な日の料理として肉料理をお望みになったのだ。
作曲家のロッシーニが好んだメニュー
「牛フィレ肉のロッシーニ風」は、牛フィレ肉にフォアグラのソテーを乗せ、上から削ったトリュフを散らした肉料理である。分厚くカットされた牛肉の旨みとフォアグラの香りが食欲をそそる。
この料理は、イタリアの大人気作曲家ジョアキーノ・ロッシーニ(1792~1868年)が好んだメニューといわれる。ロッシーニは「セビリアの理髪師」「アルジェのイタリア女」「ウィリアム・テル」などのオペラの作曲で知られ、同時に美食家としても著名だった。食通として食べることはもちろん、料理の創作にも情熱を注いだという。