地域の人々のコミュニケーションの場であり、生活の一部であった共同浴場。「大湯」「総湯」などといわれる共同浴場はいまも地域の拠点として、大事に残されていることが多く、温泉街のシンボルともいえる。石川県・山代温泉の共同浴場は平成22(2010)年に再整備が行われ、洗練された雰囲気を持つ「古総湯」が明治時代の趣を今に伝える。シャワーもカランもないけれど、極上の湯を愉しむにはうってつけ。宿から外に出て、共同浴場へ出かけてみよう。
※トップ画像は、山代温泉の共同浴場「古総湯」
山代温泉にある2つの共同浴場めぐり
山代温泉には「総湯」と「古総湯(こそうゆ)」という2つの共同浴場がある。
平成22(2010)年、もともと広場の中央にあった総湯を向かい側に移転させて新設し、中央には明治時代からあった総湯を再現した「古総湯」が造られた。
北陸では共同浴場を中心に宿や商店がぐるりと取り囲む独特な街並みを「湯の曲輪(ゆのがわ)」というが、山代温泉にもこの風情ある街並みが残っている。
「総湯」は朝から晩まで地元住民が引っきりなしに通ってくる。「総湯」も「古総湯」も「期間利用券」(「総湯」は半年で3000円、「古総湯」は同4000円)を購入すれば1回150円で利用できる。「総湯」の方が安く、洗い場もあることから、地元民は「総湯」を利用する人が多いのだとか。
浅い浴槽と深い浴槽の2つの湯船があり、女風呂の浅い湯船は41度、深い湯船は43度程度。男性の湯船はそれぞれ1度ずつ高いので結構熱めである。源泉かけ流し・循環併用で、毎日夜22時になるとお湯を抜いて清掃し、朝には再び湯を溜めて、6時のオープン時に一番湯で浴客を出迎える。
「古総湯」は、外観はもちろん、湯殿の内装、2階の休憩所の造り、かけ湯をして入る入浴法に至るまで、明治時代の湯屋を忠実に再現している。
この湯殿では、ステンドグラスの光が演出する空間美を楽しみたい。
太陽の光が赤や青、黄など色とりどりのステンドグラスの色を湯面に映し込み、幻想的な雰囲気を味わえる。ステンドグラスに使われている5色は「九谷五彩」と言って、九谷焼の色絵で使う緑・黄・紫・紺青・赤の色彩だ。漆工芸の本場・加賀市にある温泉場ならではで、壁は拭き漆、壁面の下部にはめ込まれたタイルは一枚一枚焼いた九谷焼が使われている。
「古総湯」は源泉かけ流しで加水、加温、循環はなし。肌をしっとりと潤してくれる「美肌の湯」といわれる泉質で、女性の風呂は41〜42度だが、男性は43度と少し高めに設定されている。
湯に入る時には体が冷えていたので、相当熱く感じたのだが、数分入っているうちに体が温泉に馴染んできて、ちょうどよい温度に感じられた。塩類系の温泉の温まり効果は抜群で、温泉から出たあとは全身から汗が噴き出してきて、しばらく服を着たくないほどだ。
料金は「総湯」は大人500円、「古総湯」は大人700円。総湯/古総湯共通券は900円。誰でも買える定期券(半年、1万2000円)もある。