できるだけ「旨い」という言葉を使わず、魅力を伝える
永遠のアイドルはいるのだろうか。
「趣味もどんどん変わっていきますし、そういうのはいませんね。これってラーメンも同じだなと思って。好きなタイプのラーメンも、経験の深さとその分野への感覚の馴染み度合いによって、驚くほど変わります。今は淡麗で手揉み系のラーメンが好きですが、そのラーメンは20年前も好きだったかと聞かれたら、違うと言わざるを得ません。あとは町中華っぽい、“ノスラー(ノスタルジーを感じるラーメン)”も好きです。しかし、ひと昔前はこってり系が好きでした。これはよく年齢によるものではと言われますが、僕の場合は胃袋の杯数帯がそれほど変わらないので、単に経験による変化かなと思っています」
最後に聞いたのは、「田中さんにとってラーメンとは?」ということ。
「ラーメンのどこに惹かれているのかを考えてきた時期はとうに過ぎ去っています。米のように日常的に食べていたとか、体の一部だとか、空気のような存在だとか、あって当たり前のものだとは考えていましたが、それらは全て当てはまるんですね。しかし、例えば、本当に美味しいラーメンを“旨い”というひと言で表すことは、その言葉の枠の範囲内に留めてしまうように感じるため、本当に美味しいラーメンこそ、なるべく“旨い”という言葉を使わずに、そのラーメンの魅力を表現したいという気持ちがあります。それと同じで、僕にとってのラーメンもこういう言葉で縛れるものではないと思っています。簡単に言うと、本能だけで動くように脳構造を変えられたとしても、何も考えずにラーメンは多分食べているんでしょうね。元々は別にラーメンに人生を捧げるつもりはありませんでしたが、それでもなぜ?と考えるわけですよ。やはり、“業(カルマ)”としか言えないから、ある意味、そういう風に宿命付けられて、この世に生を受けたのかなと感じています」
今後、どうラーメンを向き合っていくのか。
「今、自分でラーメンをやめようと思ってやめられるような感じじゃない。もしもきっぱりとラーメンの道を絶って違う道にと言われても想像ができないし、怖いですね。審査員を務めるみんなもそうなんじゃないですかね。空気みたいなものだとか、当たり前にあるものだとか、必要不可欠な自分の血液のようなものだみたいなことを言えているうちは、まだまだ浅いなと思いますよ」
文/市村幸妙
いちむら・ゆきえ。フリーランスのライター・編集者。地元・東京の農家さんとコミュニケーションを取ったり、手前味噌作りを友人たちと毎年共に行ったり、野菜類と発酵食品をこよなく愛する。中学受験業界にも強い雑食系。バンドの推し活も熱心にしている。落語家の夫と二人暮らし。

