コロナ禍の逆境を跳ね返す快進撃
1号店オープンから6年が経ち、大阪での出店を考え始めた。出店先は、立ち飲みの聖地である「京橋」である。
京橋といえば、大阪屈指の飲み屋街だ。朝8時からお酒が飲める店があり、昼前にはグロッキーな吞兵衛を見かけることが多々ある。そんな街での挑戦を試みた。しかし、オープンの翌年2020年にコロナウイルスが大流行。大多数の飲食店がダメージを受ける中、辻戸さんはその逆境を上手く利用することができた。
まず行ったのが、居抜き物件への入居だ。梅田に大阪駅前ビルがある。第1~4すべての棟に入居を決めるなど、進出したかった場所へ次々に出店を果たした。
また、当時飲食業界は人手が余っていたこともあり、採用も進み、良い人材の確保ができたそう。辻戸さんは「当時銀行からの融資も受けやすかったし、チャンスでしかないと思った」と語る。
安さを実現する3つの企業努力
コロナによる追い風もあり、店舗を拡大してきた立ち呑み庶民。現在どの店舗も昼の開店時から賑わう人気店となっている。それを支えるのはやはり「安さ」と「旨さ」。この物価高騰の中でもそれらを維持する秘密は3つある。
(1)業者との交渉は遠慮なく大胆に
辻戸さんにとって譲れないのはお客さんからの喜びの声。それ以上に優るものはない。だからこそ業者との交渉は遠慮なく、大胆にいくという。常に各業者の価格動向をチェックし、1円でも安く販売してくれるところから購入する。全11店舗のいずれも賑わい、大量仕入れが必要だからこそなせることだろう。
(2)プライベートブランド商品の開発
辻戸さんは、お店で提供する商品の開発も手掛けている。試作品を食べた時、頭に浮かぶのが提供価格だと言う。それを元に原材料を調整し、提供へ結びつけている。
冷凍食品など既存の商品を利用するとコストがかさみ、その分提供価格を上げる必要がある。それを避けるべく、業者と協力してプライベートブランドの開発に力を入れている。辻戸さんが開発の際、絶対的な指標にしているのが「旨さ」と「価格」。それを実現するために細かな調整を繰り返している。
「直近で非常に上手くいったのがシュウマイです。大きさ、肉の比率を贅沢に感じられるようにしました。それを2個250円で提供している。おいしくて満足感がある、今イチオシです」と辻戸さんは胸を張る。
食べてみると、薄いのにモチモチとした皮に、ぎっしりとタネが詰まっていて、ボリューム満点。2個でビールの中ジョッキ1杯が飲めてしまうくらい食べ応えのある一品だ。
(3)徹底的なコストカット
立ち呑み庶民は、11店舗展開していながら、会社には裏方が2人しかいない。社長の辻戸さんと、人事の堀さん。他はすべて店舗運営スタッフ。経理などのバックオフィスは辻戸さんが担当するか、アウトソーシングしている。そのため、拠点となる事務所は来客用スペースがあるだけで、その他のスペースは店舗従業員が休憩できるようになっていた。
またそれだけに留まらず、店舗や備品の不具合は業者を呼ぶのではなく、辻戸さんが概ね対応できるようにしているという。
こうした企業努力のもと得た利益を材料費に注ぎ込めるようにしている。
つまり、実食の上思い浮かんだ理想の提供価格を厳守できるように、削れるところから徹底的に削る。
それが立ち吞み庶民が低価格で旨いお酒と料理を提供できる理由だった。
辻戸さんは「寿司店でのお手伝いの経験だけでは、具体的に安く提供するやり方はわからなかった。だから、とりあえず出したい売価で提供してみて、それを維持し続けるにはどうしたら良いのかを後から考える……。それをオープンから今まで繰り返している」と語る。
辻戸さんのこのような運営の仕方に、人事であり右腕の堀さんは「将来的に自分も店を持ちたいから非常に勉強になる。今まで普通だと思っていたことがまったく普通ではなく、毎日刺激的でとても楽しい」と笑顔だ。
立ち吞み庶民は「めっちゃええやん」「安っ!!!」と お客さんに喜んでもらえることを最優先に12年間ブレずに営業を続けている。
辻戸さんは現場を離れて久しくなるが、今でも新店のオープンには必ず立ち合う。その際、店内が満員であることが何よりうれしく、それが原動力になっているのだそう。今もなおお店へのモチベーションは高いままだ。
「お得は楽しい」そこから始まった立ち呑み庶民。これからも食道楽の街、大阪を中心に私たち吞兵衛を楽しませてほしい。
取材・撮影/後藤華子



