あなたは満席以外の理由で、飲食店から入店を『お断り』されたことはあるでしょうか。ほとんどの方は経験がないと思います。けれど、日常生活に車いすを利用する人にとって、『お断り』は決して珍しいことではありません。誰しも、何らかの理由で、ある日車いすを利用する生活になることは十分あり得ます。当然ながら、もし目の前で断られたら、とても悲しい、寂しい……。日常生活に車いすを利用する池田君江さんは、そんな思いをする人がひとりでも少なくなるよう、「ココロのバリアフリー計画」を広めています。そのきっかけになったのは、あの『串カツ田中』だったといいます。なぜ『串カツ田中』!? 君江さんと、『串カツ田中』創業者・貫 啓二さんに語っていただきました!
串カツ片手に「どうぞ、どうぞ」
「すみません、車いすでも入れますか?」
忙しさも山を越えた夜10時ごろ、一人の男性が店にやってきた。
「ウチはええねんけど、車いすのお客さん来たことないから。どう手伝ったらいいん?」
店長の貫(ぬき)啓二さんは、そう答えた。
「入れてくれるって!」と男性が叫ぶと、「ええ! いいのっ!?」という弾けるような声と共に現れたのは、車いすに乗った女性と少女。めちゃくちゃうれしそうな、満面の笑顔だった。
店の名前は、『串カツ田中 世田谷店』。ご存じ『串カツ田中』が、この世にまだ1軒しかなかった2009年のことだ。これが貫さんと、池田君江さんとの出会いである。男性は君江さんの夫、少女は娘さん。
今、貫さんと君江さんは、「ぬっきー」「きみちゃん」と呼び合う友人であり、「ココロのバリアフリー」を広める同志でもある。
貫さんは今でもその光景をはっきり覚えているという。
貫「世田谷通りから一本入ると、けっこう暗いんですね。その暗い路地からめちゃくちゃ明るい人がやって来て(笑)。それまで障害のある方に接する機会がなく、どうしていいかわからなかったので、明るい人でホッとしました。『入ってもらってええけど、だいじょうぶかな』と思ったので、どうお手伝いしたらいいか聞きました」。
君江「『あ、入れてくれるんや』と思ったけど、『入れるのかな、ここ』と。複雑な段差があって、通路も狭そうでした。店員さんが4人くらいで持ち上げて入れてくれたんですけど、中に入ったらめっちゃ狭くてどうしようと。そしたら、ぬっきーがお客さんたちに『ちょっと一回立ってください~』と声をかけてくれて。誰ひとり嫌な顔せず立ってくれました。テーブルをずらして、みなさん串カツやジョッキ片手に(笑)『どうぞどうぞ』と。これは今でも思うことなんですけど、やさしい店に来る方は、やさしい人が多いですよね。またはやさしい店にいると、やさしい気持ちになっていくのかもしれない」
貫「そんな、深く考えてしたことじゃないんです。倒産寸前やったから、『お客さん、来てくれたーっ』と(笑)。ウチの串カツを食べに来てくれたお客さんを断るなんてあり得なかった」
君江「車いすでも、『お客さん、来てくれた』と思ってくれたのがうれしかった。みなさん、店に断られるって経験は普通ないと思うんです。私もケガをして車いすの生活になるまでの30数年間、一度もありませんでした。それが、車いすに乗っているだけでこんなに断られるんだと……。
『バリアフリー』と書いてあっても『他のお客様の迷惑になる』と断られたり、舌打ちされたり、邪魔扱いされるんだということにびっくりしました。だから、この日は本当にうれしかったし、外に出る勇気が湧きました。『串カツ田中』で私の人生、変わったんです」














