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すべての人に完ぺきはない!

「設備的にバリアフリーじゃなくても、居心地いいなあ」という気持ち。それが、今君江さんが進める「ココロのバリアフリー計画」の出発点だ

2013年、認定NPO法人「ココロのバリアフリー計画」を設立。「1段や2段の段差があっても、少しのココロがあればバリアフリーを超える素敵なお店・場所になる」ーーと、伝え続けている。そう、あの日の『串カツ田中 世田谷店』のように。

活動としては、飲食店に「応援店」になってもらい、「入口幅」「入口段差」「エレベータの有無」「トイレ入口幅」など、店のバリアフリー情報を提供してもらう。そのうえで、当事者が利用できるかどうか判断すればいいという考え方だ。

「ココロのバリアフリー応援店検索サイト」TOPページ
「ココロのバリアフリー応援店検索サイト」TOPページ

君江「『鳥貴族』の大倉社長とお会いした時、『ごめんね、うちはバリアフリーとは程遠いんだ』とおっしゃるんです。それで、私は『違うんです、バリアフリーとは程遠い情報がありがたいんです。でもエレベーターのある店もありますよね?』と言いました。

すると社長さんは、『あるよ。それでよければ全店舗応援するよ』と言ってくれたんです。そして、600数店舗分の情報を一気にくれて、応援店になってくださいました。本当に、ありのままの情報をくださる、それでいい。それが助かるんです」

『串カツ田中』ももちろん、全店が「ココロのバリアフリー」応援店になっている。貫さんと君江さんの出会いが、その後の君江さんの人生を変え、また、その後全国に展開する『串カツ田中』のあり方をも変えたのだ。
 

本社にも「ココロのバリアフリー応援店」のステッカーが貼られている
本社にも「ココロのバリアフリー応援店」のステッカーが貼られている

2号店の尾山台店は、広さも十分あったのでバリアフリーに設計しました。カウンター、テーブルもローにして……」

君江「カウンターやテーブルの高さって、実は大事で。今けっこうハイカウンターが増えてるんですけど。車いすでハイカウンターだと、飲み物くらいならなんとかなっても、ラーメンは食べられない(笑)」

「他も、スペースがちっちゃくて無理な店もあるけど、可能な限りバリアフリーの設計にしています。ただ、人によって、車いすのサイズだって違うし、杖をついて少しなら歩ける方もいれば、手が動かない方もいます。

すべての人にとって完ぺきは難しい。その『完ぺきは難しい』ことをおそらくほとんどの人は知らないですよね。僕も知らなかった。だから『完ぺきじゃないといけない』と思いこんじゃう。完ぺきじゃなくていいんですよ、と伝えたいです

君江「そうなんです、全員に完ぺきは無理。だから私たちは、『データだけ教えてください』という活動をしてるんです。行けるかどうかは本人が一番わかるから。例えば車いすでトイレが使えないとわかっていれば、近くのコンビニや公共施設とか、トイレが借りられるところを探しておきます。

あとはお店の方が『ウェルカム』の気持ちでいてくれれば……。私自身、本当に『また来てね』の一言で人生変わったので

東京都の「心のバリアフリー」サポート企業としても登録されている
東京都の「心のバリアフリー」サポート企業としても登録されている

「きみちゃんのおかげで、僕もやけど、スタッフの社会性が上がったと思います。いろんなお客さまに対応できるし、日常的にもよく声もかけてますね。声をかけるって勇気が要るじゃないですか。でも僕は、勇気が要らなくなった。

今日も、山手線で五反田まで来るとき、大崎止まりに乗っちゃって。一旦降りたんだけど、車内に気づかずにいる外国人グループが残ってたんで、『Out of serviceよ』って言いに戻ったんです。昔だったら絶対言わなかった。きみちゃんと出会って、言うのが普通になった。それが普通になるって、たぶん難しい。僕は運がよかったって思います」

会社としては、社員総会などで君江さんに講演、講習をしてもらい、対応については研修マニュアルにも入っている。また、シェアスロープ(※コラム参照)を備えた店も年々増やしている

社員総会で講演する君江さん
社員総会で講演する君江さん
シェアスロープ
シェアスロープ

今や全国展開する『串カツ田中』だが、フランチャイズ店も店舗設計を任せきりにはしないという。

「フランチャイズであっても、店舗の設計には確実に監修が入ってます。バリアフリー面では、『できそうだから、ここはこうしましょう』と言う具合で」

君江「高田馬場店は、私が監修に入らせていただいたんです。設計の方と、トイレの便座の向き、荷物置き場などを話して、完ぺきでした。

ところが、お披露目の日、トイレクリーナーの設置に来た業者の方が、車いすに乗っていると届かないような位置に付けようとしたんです。で、『便座に移る前に拭くものだから、ここに付けたら取って拭けないですよね』と説明しました。するとその方はポカーンという感じで……。車いすに乗ってる状態というのがわからないんですよね。でも、ちゃんと話せばわかってもらえました。おかげで高田馬場店は完全バリアフリーです

監修のみならず、君枝さんは講演も行う
監修のみならず、君枝さんは講演も行う

「慣れないとわからないんだよね。ウチは全社員、スタッフに浸透しているほうだと思うけど、やっぱり車いすのお客さんに初めて対応するとしたら、あたふたすると思う。慣れないから。自分がそうだったけれど、触れた数が多ければ多いほど慣れるんですね。段差の高さによっては、前から降りたら危ないな、後ろからだなとか」

君江「慣れと、あとは『どうやったら入れる?』『どう手伝ったらいい?』という、ウェルカムなココロ。それが、私たちが外に出る勇気につながるんです

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本郷明美
本郷明美

本郷明美

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