SFっぽい異世界シティ
その正体は自衛隊のレーダー基地であった。とは言っても、今は使われておらず廃墟と化しているようだ。金北山から今日のゴールの白雲台にかけて防衛省の管理道路を通るため、通行申請も兼ねる登山届を必ず事前に提出する必要があり、何かしら山中に自衛隊の施設があるのだろうとは考えていたが、まさか佐渡最高峰だったとは。
元々は戦後にソ連の動きを見張るため、アメリカが建てたものを日本の自衛隊が引き継いだそう。しかし新しい高性能のレーダーを建てる土地がないため、2011年に金北山から西に2、3キロ離れた妙見山(1042m)に移動したらしい。
佐渡のガイドブックには「山頂から佐渡が一望できる! 絶景!」とは書いてあったが、山頂にこんなSFっぽい異世界シティがあるとはひと言も触れていなかった。その昔、山伏たちが過酷な修行をした千数百年もの歴史をもつ「金北山神社奥宮」と、冷戦時代の遺物であるレーダー基地のコントラストが強烈でなんともシュールだ。
風が吹くたびにどこからか「ギィィ」と金属音が聞こえて不気味だし、晴れるどころかこの陰鬱な空と濃い霧がうっとうしいけれど、かえってこの独特な山頂の特徴を際立たせているような気もする。スパイ映画の『007』のジェームス・ボンドがひょっこり出てきて、悪い奴と決闘しそうだ。ロケ地としていつか使われることもあるだろうか。
海鮮味とカレー味
神社に下山の安全をお祈りした後、全く麓の景色も見えない岩の上でお湯を注いでカップラーメンを食べることにした。どうして山の上で食べるカップラーメンはこんなにおいしいのだろう。霧が流れて前方に座っている人影が見えた。ジェームス……ではなく登山客の男性であった。
そして彼がリュックから取り出したのはやはりカップラーメン。しかも同じ銘柄だ。そして数分後、蓋をあけてすすりはじめた。こっちは海鮮味だが、あちらはカレー味。匂いは混じりあい、ずるずる啜る音だけが霧のなかこだまする。
一方、先ほどの「夏の道」を行った女性たちは結局、山頂に現れなかった。もしかしたら私が「冬の道」に苦戦している間に先に行っただろうか。「佐渡のマチュピチュ」を後にして壊れた鳥居をくぐり、白雲台へと向かった。ますます霧は濃くなり、もはや異界に迷い込んだようだ。



