果たして夏の道は?
ドンデンから縦走して金北山の山頂までの道は大変だったが、管轄道路はめちゃくちゃ整備されており、先ほどとまるで違う景色と驚くほどフラットな道に最後まで驚きっぱなしであった。
タッタと下っていると、自衛隊のトラックとすれ違った。助手席に乗っていた女性隊員さんが私を見つけて敬礼してくれたので、手を振った。船で会った隊員さんたちも、このあたりで勤務しているのかもしれない。
下りはなんとも味気なくそしてあっけなかった。霧の向こうにゴールの白雲台の小屋が見えてきた。バスを待つ登山客の中に先ほどの女性はいない。確かこの麓に向かうバスは最終便だ。大丈夫だろうか。表に出て山の上を見ていると、出発直前になって、「わー! そのバス、待って~!」と走って来る二人組がいた。彼女たちだ!
「私たちも冬の道を行けばよかったあ~!」と二人は悔しがった。私は「冬の道」がどれだけ大変だったか語るつもりが、バスの中で「夏の道」が雪だらけ泥だらけでいかに恐ろしかったかという二人の冒険譚に相槌を打つことになった。
そういえば、太宰治の小説『佐渡』の主人公の「私」がドテラを着て山に登ったのは「シベリアおろし」が吹く冬であった。奥深い大佐渡山地の冬の縦走はドテラでは不可能だけど、もし太宰治が初夏に島に来て、変化に富んだこの美しい山道を堪能できていたとしたら……きっと「つまらぬ」連発を打ち止めにして、違うあらすじになったかも知れない。『佐渡』の夏編、いったいどんな話になっただろうか。
取材・撮影/白石あづさ







