中世には貴族が流された絶望の「流刑の地」として、江戸時代には欲望が渦巻く世界最大級の金山としてその名を歴史に轟かせた佐渡島。独特の文化や自然が残る日本海最大の離島を、文豪・太宰治は、小説で「死ぬほど淋しい」と綴ったけれど実際どうなのか? 長年の謎に答えを出すべく北から南まで6日間かけて一周しました。
前回(第3回目)のドンデン高原に続き、第4話では標高1000mにもかかわらず、日本アルプス級の楽しみが詰まった世界でも珍しい佐渡の山旅をご紹介します。
「つまらぬもの」が見つからない
佐渡編の第1回目でも触れたが、太宰治の短篇『佐渡』は、どこを切っても主人公の「私」が、「佐渡はつまらぬところ」「何もない」と最初から最後までひたすらぼやき続ける何とも風変わりな小説である。
しかし、ブウブウいう割に「私」はけっこうアクティブだ。宿のドテラを着たまま海へ行き、さらに山に登る。どこの山に登ったのかは書かれていないが、下山し街を歩いてショッピングまでする。
そこまでしても「少しも気持ちがはずまない」とまた愚痴る。そして「これでよいのかも知れぬ。私は、とうとう佐渡を見てしまったのだ」と達観する(?)のだ。ちょっと見ただけで「つまらない」と吐き捨てる人より、ひと通りしっかり観光しての「つまらない」なので誠実といえば誠実かもしれないが。
私が初めてこの小説を読んだ時は「どれだけ佐渡はつまらないのだろう」と逆に興味を覚えたものの、昨日までの2日間は何から何まで面白すぎて、なかなか「つまらぬもの」が見つからない。1ミリも主人公の気持ちに感情移入できないまま、大佐渡山地に位置する標高900mのドンデン高原で3日目の朝を迎えた。
尻を立てる?
昨日の大雨と違って、雨は止んでいたが雲に覆われてスッキリしない。それでも日の出近くにはドンデン山荘に泊まっていた登山客がテラスに固まってカメラを構えている。空が赤く染まったが日の出らしい日の出は見えなかった。
さあ、いよいよ出発しよう。今日はドンデン山荘から佐渡最高峰の金北山(1172m)を経て、白雲台までの13.6キロを8時間かけて大佐渡山地を縦走するのだ。登山靴の紐をギュウと絞り、白い霧で霞むドンデンのなだらかな山肌を歩き始めた。ほとんど人がおらず、幻想的な山道が続く。
最初のピークは尻立山であった。尻を立てる……ずいぶんと妙な名前だ。山の尾根の端っこの山の名に「尻」がつけられやすいと聞いたことはあるが、もしくは遠目から見たらこの山頂の形が人間のヒップに見えるのだろうか。



