ニュー・アルバム『あめりか』から伝わってくる豊かな音楽キャリア
2021年11月時点での細野晴臣のニュー・アルバムは『あめりか~Hosono Haruomi LIVE in US 2019』(2021年2月リリース)だ。2019年にロサンゼルスのマヤン・シアターで行ったライヴを収録している。1973年に埼玉の狭山にあった自宅でレコーディングしたファースト・ソロ・アルバム『HOSONO HOUSE』からの「住所不定無職低収入」、「CHOO CHOO ガタゴト」などの選曲もあり、オールタイム・ベスト・ライヴと呼べるアルバムだ。
このアルバムを聴いていると、細野晴臣というミュージシャンがいかに長い音楽街道を歩んで来たのかが伝わる。
細野晴臣の生み出す音楽はカテゴライズしたり、ひとくくりにされることを拒んでいる。はっぴいえんど時代の楽曲、『トロピカル・ダンディー』や『泰安洋行』時代の楽曲、YMOでの作品、その後のソロ・ワークや坂本冬美、忌野清志郎、遊佐未森(ゆさ・みもり)、甲田益也子(みやこ)、小川美潮、コシミハル、ビル・ラズウェルなどとのコラボレーション楽曲…。ひとつのプロジェクト毎に細野晴臣は異なった才能を見せる。
その才能は音楽的多面体なのだ。これだけ型にはまらず、多才なミュージシャンは世界的に見ても数少ない。
「香港Blues」 映画『脱出』のカヴァー曲
そんな細野晴臣の楽曲群から、私的な3曲を選ぶのは難しい。はっぴいえんど時代の作品からも、YMO時代の楽曲からも、それだけでベスト・アルバムを組めるほどだからだ。
それでも極私的に選ぶとしたら、まずは1976年のサード・ソロ・アルバム『泰安洋行』から「香港Blues」となる。ハンフリー・ボガートの映画『脱出』で有名な曲で、ホーギー・カーマイケルが作詞・作曲のカヴァーだ。
細野晴臣はこの曲をアメリカのトロピカル・ミュージックの先駆者マーティン・デニーにインスパイアされてアレンジしている。細野晴臣がこの曲をカヴァーしたことにより、1970年代中期の熱心な音楽ファンは、ホーギー・カーマイケルやマーティン・デニーの音楽を探ることが静かなブームになった。