名湯をもとめ、全国津々浦々巡っている温泉ソムリエの資格を持つライター・森田幸江。都会を離れて「ちょっと秘湯」をと、群馬県・みなかみ町の温泉旅館で憧れの天然温泉に浸かってきました。
湯温が異なる4区切りの浴槽
くたくたに蕩けるまで大地の恵みに身を浸したい――そんな旅の温泉好きが高じて温泉ソムリエとなった私は、かねてより「浴槽の底からポコポコと自然湧出する天然温泉」が憧れだった。
だって純粋に、おもしろそうじゃない。
そんな無邪気な憧れを叶えてくれるのが、群馬県利根郡みなかみ町の秘湯「法師温泉長寿館」だ。
東京から電車、レンタカーと乗り継ぐ長旅を経て辿り着くと、主たる浴室の「法師乃湯」には、まるでフェルメールの『牛乳を注ぐ女』のように柔らかな陽光が射す窓があり、明治建造の浴槽にはなみなみと自然湧出泉がたたえられて神秘的だ。
こちら法師乃湯は4つに区切られた浴槽は湯温が異なるため、身体を慣らして巡るのも乙なもの。しかも一定の女性専用時間を除いて、近年珍しい「混浴」なのだ。
当館では身を隠す「湯あみ着」の着用や手拭い等を浴槽内に浸すことを禁止としているため、女性も男性も、湯に浸かる際には生まれたままの姿になる。これも湯の質を守っていく大切なルールだろう。
静かな湯あみを求めて混浴時間の深夜、私は友人と法師乃湯の入口を覗いた。すると大チャンス到来。外にスリッパがひとつもない! ふたりで急いで浴衣を脱ぎ、心の中で「お邪魔します」と呟きながら浴室に入る。