大分の水産会社による完全養殖うなぎの試験販売が巷で話題を集めていますが、埼玉県にも完全養殖の実現に向けて奮闘している企業があります。それがなんと、ガス会社!なぜうなぎの養殖に至ったのか。埼玉生まれ埼玉育ちのライター菜々山が、養鰻場を直撃しました。
きっかけは人事異動。ゼロベースの養殖事業
東京暮らしが長くなったけど、生まれも育ちも埼玉県です。郷土愛だってそれなりにある。もちろん、うなぎも大好物。
そんな筆者に明るいニュースが飛び込んできた。“埼玉でシラスウナギの生産に成功!”。それを実現させたのが、創業から2026年でちょうど百周年の老舗企業「武州ガス株式会社」だという。
エネルギー会社なのに一体なぜ?そんなナゾを掘り下げに取材に向かった。
到着したのは東松山ICからほど近く。水辺でもなければ野山でもない、すぐ近くにはコンビニだってある、いわゆる普通の場所に養鰻場はあった。出迎えてくれたのが水産事業チームの大河原宏真さん。さっそくその疑問をぶつけてみることに。
「それまで入社から法人営業1本でやってきたんです。ところがある日、突然の人事異動。それもガス事業に頼らない、新事業を立ち上げるための部署だったんです。もう寝耳に水でした(笑)」
新事業といってもアイデアはたくさんあったと思うけれど、なぜノウハウのないうなぎの養殖に?
「埼玉は川越や浦和はもちろん、全体としてうなぎ食文化が盛んな土地。でも県内に養鰻施設はありませんでした。ならば地域貢献の意味も含めて地産地消を目指そうと」。
それからの大河原さんは怒涛の日々。施設を設置する土地の選定から、機材や稚魚の仕入れルートの確保などなど、全国を駆け巡り、運命の日から1年後の2022年6月からようやく始動することになった。
そんな話を伺いながら施設の内部へ潜入してみると、体育館のような広い建物内には直径8m、深さ1mほどの円形の水槽が6つ並んでいた。
ひとつの水槽には7千〜1万匹が飼育されていて、覗き込めば元気に泳ぐうなぎの姿も見てとれる。さらに大河原さんが披露してくれたのが生簀に入る前の新入生たち。稚魚かと思えば、やや成長しているように思える。
「うちで買い付ける多くはシラスウナギでなく“クロコ”と呼ばれる20gほどの幼魚です。最初は別の養鰻場にいたんですけど、成長が遅いため、川に放流されてしまうこともあるようです。それでも水温やエサに気を遣って大事に育ててやれば8〜10ヶ月で立派な大人に成長してくれますよ」。
うう、なんだかいい話(泣)。意外な場所で金八先生を思い出した。
さて冒頭の明るいニュースについても触れておこう。前提として、この施設ではまだ完全養殖には至っていない。共同研究契約を結んだ国立研究開発法人水産研究・教育機構から、ふ化して間もないレプトセファルス(仔魚)の提供を受け、約200日の飼育を行い、シラスウナギへ変態に成功させたのだ。
「シラスウナギを育て、それが親になって卵を産んで、またそれを成長させてと、完全養殖にはまだまだ時間がかかります。それでも少しずつ前進して地元のうなぎ食文化に貢献していきたいですね」。
ガス会社が畑違いで始めたうなぎ養殖。これからの行く末を楽しみに夢の実現を待つとしよう。
武州ガス株式会社水産事業チームマネージャー:大河原 宏真さん「立ち上げから4年、ようやくここまできました」
武州ガス水産研究所
埼玉県東松山市石橋2173-3











