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名古屋駅ホームのきしめんにまつわるさまざまな「ウワサ」を徹底検証してみた!

きしめんと聞いて、名古屋駅のホームを連想される方は多いと思う。
人によっては、「駅のホームで食べるきしめんがいちばん旨い」とも。
駅ホームのきしめんをディスるつもりは毛頭ないが、地元在住の私は、駅のきしめんにそこまでの思い入れはない。
なぜなら名古屋には、手打ちの麺や、ムロアジベースのつゆにこだわった美味しい店がいっぱいあるからだ。

とはいえ、私自身、駅ホームのきしめんについてどれだけ知っているのだろうか?
また、名古屋駅のきしめんについて、「○番線ホームがいちばん旨い」とか、「○番線ホームは天ぷらが揚げたて」など、真偽のほどは定かではないが、ネット上ではさまざまな説が論じられている。
そこで今回は、駅ホームのきしめんの魅力に迫るとともに、ネット上の説について検証してみようと思う。

名古屋駅ホームのきしめんは、駅構内でお酒やビールを販売していた(株)ジャパン・トラベル・サーヴィスが1961(昭和36)年に3・4番線と5・6番線のホームで販売したのがはじまりだ。
現在では、12・13番線を除くホーム内の全10店舗で食べられる。

(株)ジャパン・トラベル・サーヴィス(以下JTS)が運営するのは、『住よし』7店と『憩(いこい)』(5・6番線大阪方)、『グル麺』(新幹線14・15番線東京方)の計9軒。
残りの在来線1・2番線大阪方の『かきつばた』はJR東海フードサービスが運営し、新幹線16・17番線東京方の『グル麺』の計2軒は東海道新幹線の車内販売を手がける(株)ジェイアール東海パッセンジャーズ(以下JRCP)が運営している。

まずはJTSとJRCP、それぞれのきしめんを食べ比べてみようと思う。
最初に、ネット上で「いちばん美味しい」と評判のJTSが運営する3・4番線の『住吉』へ向かった。

店の入り口にある券売機で食券を購入してから注文するシステム。
私自身、駅ホームのきしめんを食べるのは久しぶりだが、驚いたのがこのメニューのラインナップ。
「かき揚げ」や「海老天」、「玉子」、「きつね」くらいしか記憶になかったが、「豚しゃぶ」や「みそ」、「ジャンボかにかま天」なんてのもある。
どれにしようか迷ったが、味の比較がしやすいように、ここはシンプルな「きしめん」(350円)を注文することに。

店員さんが食券を受け取ると、冷凍庫から麺を取りだして、麺茹で機にイン。
温まった麺を丼に移して、つゆをかける。
仕上げに煮揚げとネギ、花かつおをのせて完成。
一連の動きにはまったく無駄がなく、実に手際が良い。
注文して3分ほどで出てきた。
ゆらゆらと揺れる花かつおが食欲をそそる。
なによりも、香り立つダシの風味が鼻腔をくすぐる。
ガマンできずに、まずはつゆをひと口。
うん、これ、これっ!
濃厚でパンチのある味わいはまさしくムロアジがベースに違いない。
お酒ではないが、五臓六腑に染みわたる!
そして、麺。
冷凍麺ゆえに手打ち麺のようなもっちりとした食感はないものの、のど越しは十分。
このクオリティで350円なら絶対に安いと思う。
巷のうどん店にとっては脅威だろう。

次に向かったのは、JRCPが運営する1・2番線大阪方面行きの『かきつばた』。
店の造りからして、『住よし』と一線を画している。
店内に入って驚いたのは、お酒と肴のメニューの充実ぶり。
「おでん」や「どて焼」、「肉じゃが」まであり、きしめん店というよりは立ち呑み屋である。

店の前に券売機はなく、店員さんに直接注文するのだが、これがメニュー。
『住よし』のように「みそきしめん」や「ジャンボかにかま天」のような攻めたメニューはなく、かなりシンプルなのが特徴だ。
唯一、赤字で書かれた「特製かき揚げきしめん」が気になったが、ここでもノーマルな「きしめん」(350円)を注文した。

調理のプロセスは『住よし』とほぼ同じ。
ここでも3分ほどで出てきた。
ひと目見て、『住よし』と違うのがわかった。
いや、『住よし』どころか、名古屋の数多あるきしめんと根本的に違うのだ。
それはつゆの色である。白く、透き通っているのだ。
ひと口飲んでみて確信した。
かつお節と昆布のダシがきいた、関西風のつゆである。
懐石料理の椀物を思わせる上品な味わいは、野趣溢れる名古屋風のつゆとまるで対極である(笑)。
具材はカマボコとネギ、花かつお。
麺は……つゆのインパクトが強すぎて覚えていないが(苦笑)、『住よし』とほぼ同じだったと思う。
「これはきしめんではない!ニセモノだーっ!」などと了見の狭いことを私は言うつもりはない。
なぜなら、これを「きしめん」として売り出し、食べに来る客がいるからである。
食文化は多様化するのが常であり、その発見が食べ歩きの楽しさでもあるのだ。
上から目線で、しかも匿名でぶった斬るのは、本人は爽快かもしれないが、見る側にとっては不快そのものなのだ。

おっと、話が逸れた。
『住よし』と『かきつばた』のきしめんはまったく別物であることがわかったが、名古屋駅に7店ある『住よし』は、ホームごとに味が異なるのだろうか?
JTSに問い合わせてみた。
「『住よし』に限らず、『憩(いこい)』や『グル麺』もまったく同じ材料を使って、まったく同じレシピで作っています。
味が違うということはあり得ません。
万一、違うとなると、社内で問題になります」とのことだった。
わかりやすい例が、ファストフードチェーンのハンバーガーだ。
日本全国、どこで食べても味が同じであることは不自然でも何でもない。
もちろん、和風ダシは時間が経つにつれて風味が抜けていくため、時間帯によっては多少の誤差は出るかもしれないが、「ホームごとに味が違う」という説は、JTSの担当者も首を傾げていた。

ついでに「3・4番線ホームは天ぷらが揚げたて」説についても聞いてみた。
「実はそれも間違ってるんですよ。
当社が運営する在来線ホームの店にはすべてフライヤーが完備していますから、どの店も天ぷらは揚げたてを提供しています。
ただ、新幹線ホームの店にはフライヤーがないため、電車の乗り入れがいちばん少ない3・4番線の店で揚げたものを運んでいます。
それがどういうわけか、『3・4番線が唯一揚げたての天ぷらを提供している』という話になってしまったんです」と、困惑した様子だった。
今回、駅ホームのきしめんを食べて、路面店とは違った美味しさを感じた。
それは一体何だろうと考えるなか、電車での出張から名古屋駅で下りたときの、ホームに立ちこめるダシの香りを思い出した。
名古屋人はこれが地元に帰ってきたことを実感する瞬間である。
つまり、駅という旅情を感じさせるシチュエーションこそが味と大きく関係しているのだ。

永谷正樹(ながや・まさき)
1969年生まれのアラフィフライター兼カメラマン。名古屋めしをこよなく愛し、『おとなの週末』をはじめとする全国誌に発信。名古屋めしの専門家としてテレビ出演や講演会もこなす。

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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永谷正樹
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